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食いしん坊な彼
あなたはよく食べる、という一言に尽きる。
台所にお菓子のストックはもちろん、カップラーメン、缶詰……
とにかくたくさんの食べ物が家にある。彼はそれをいつも食べている。
食べたあとは眠っている。だから、起きているときは常に何かを食べているし、その以外は寝ている、ということだ。それなのに彼の体型は中肉中背と不思議な体型だ。
「今日はね、新しい食べ物を買ったんだ」
上機嫌の彼はなにやらスーパーの袋に入れて持ち帰ってきた。
「なにそれ」
私は興味があった。なぜなら彼はまずいものは決して食べない、ということを知っていたからだ。
「えっと試食で食べたんだけどめっちゃうまくてさ……」
パックに入っていたのは、焼き肉のようなものだった。
「これは肉?」
「うん、なんかよくわからないんだけど美味しいんだよ」
割り箸を台所から持ってくるとパクっと彼は口に頬張る。そのあと、にっこり満足顔になった。
「夏美も食べてみなよ」
すすめられて私も割り箸を借りて口に入れてみた。
もぐもぐ……ん?
肉のような食感なのにふわふわとした甘い味がした。
「不思議な味だね」
私が言うと、彼はそうだね、と言ったが、姿が変わっていた。
「その姿、どうしたの?」
思わず、私が口にすると、彼はなに?と不思議そうな顔で私を見つめ返した。
「え?なんか変、僕?」
私の異変に気付き、彼は私がバッグから急いで取り出した手鏡を見つめ驚く。
「あれ?僕、小さくなってる」
背もどんどん縮んでいく。
「どうしよう、夏美!僕小さくなっちゃう」
彼の幼少化はどんどん進んでいく。
「でも夏美も食べたよね? なんで夏美はそのままなの?」
私は考えてみたがわからなかった。
「ごめん、わからない」
小さくなった彼と私は部屋で途方にくれていた。
「小さい頃のたっくんってそんな見た目だったんだね」
私は考えるのをやめて、もう彼の姿を受けれることにした。
「もう夏美はのんきだな、僕がこのままでもいいの?」
「うん、まぁいいかな。小さな弟ができたと思って」
「ふん。夏美の弟になってやらなくもない」
「まぁまぁ気晴らしに散歩でも行こうよ」
私は外に彼を連れ出した。
今まではカップルとして見られていた私たちは一瞬で姉と弟、もしくはお姉さんと小さい子供という見られ方になった。
「これは新鮮かも」
「なんか言った?」
手をつないでも口と耳の位置が違うので言葉の聞こえ方も変わってきていた。
「ううん、なんでもない」
私はあわてて誤魔化した。
二人で公園につくと、小さな乗り物があって
「たっくん、乗ってみたら?」
私は提案してみた。
「ちょっと夏美ふざけてる?こんなの乗るわけないじゃん」
彼はいいつつ、乗ってみたらとても似合っていた。思わずスマホで撮ると
「なんで撮るんだよ!」
顔を真っ赤にして彼は怒った。
そんなことをして二人で公園で過ごし、夕暮れになって家に帰ることにした。
彼は目をこすり、眠いといいつつ
「子供の自分も悪くはない」
と言って、彼は私の背中に背負われ眠ってしまった。
小さくなった彼と私はゆっくり家に帰ることにした。
彼を布団に寝かせ、彼のお腹をぽんぽん叩いていると私も眠くなった。
ちょっとおやすみ……私は卓也の横で眠ることにした。
目が覚めると
「結構寝てたよ」
と笑いながらコーヒーを飲む彼がいた。もう大人の姿でどこも変じゃなかった。
「ちょっと夢見てて……」
「そう、まぁ、眠れたら良かった」
そういってポテチに手が伸びる彼に
「美味しいからってなんでも買ってきて食べちゃダメだよ」
「え?なんのこと?」
「なんでもない!」
ほんと夢で良かったと私は思った。
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