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数年後の再会
「ーーお帰りっ。そして、おめでとうっ」
「あざっす」
智明と樋口は松田のお祝いで地元の飲み屋街にある居酒屋に集まっていた。
「長かったわぁ。もうどこに行っても次々に仕事言われるし、地元に一回帰ろうって思ったら急に海外出張。ふざけんなって」
「ハハハ、まあまあ落ち着けって。おかげでハンナさんと出会えたじゃないか。ちゃんと人生はなるようになってるんだって」
「でも、松田がまさか外国の人と結婚するなんてね。子供が楽しみだね」
「智明、そんな甘くないぜ。松田に似たら将来絶対苦労するぞ」
「お前、どういうことだよっ。
でも、智明も大変だったな・・。こういうのって何て言ったらいいのかわかんないけど」
智明は昨年母を失った。父親が働き、智明が介護という方法をとっていたらしいが、収入面を考えればそちらの方が現実的なのかもしれない。
「まあ、いつか来る話だからね。
でも、30歳過ぎてようやく社会人になれたよ」
「ーー久しぶりに楽しかったぁ。やっぱ地元がいいわぁ」
「俺達も松田の元気そうな顔見れて良かったよ。後は智明だけだな」
「えっ?何の話?」
智明はわざとらしく冗談っぽく話を逸らした。
「わかってるくせに」
「まあまあ、僕は自分のペースで探すよ。
あっ、ここ葉奈味があったとこだね・・」
「懐かしいな・・」
裏路地はまだあったが、もうそこに葉奈味はない。
「何それ、はなみ、って?」
「松田の引っ越しの日に来たんだよ。俺と智明の二人で」
「駒沢さん、元気にしてるかなぁ・・。結局あの後一回も行けず終いだったからなぁ」
「俺も仕事が忙しくなってから行かなくなったからな。でも、行く度にお前のこと聞いてきてたよ。
智明にまた来てくださいって言っててくれって言われてたけど・・」
「色々と重なっちゃってたからなぁ・・。知ってたけどショック」
「お宅の正孝ちゃん、よく働くわねぇ」
「働くのは働くが、もう40に近づいてきてるのに独り身ってのが俺とすれば気がかりだよ」
「器量もよくて、優しくて、働き者で、家のこともやって・・。言うことなしなんだけどね。でも、何でもできすぎる人は結婚できないって言うもんねぇ」
「何でもできるのかはわからんが・・。ここの後を継いでくれて切り盛りしてくれてるのは嬉しいし、まさかちゃんと生活できる程にできるとは思わなかったよ」
「羨ましいことじゃないの。男は40過ぎてから結婚する人も多いから大丈夫よ」
駒沢は日に焼けた顔に流れる汗を首に巻いたタオルで拭うと、また農作業に戻った。
駒沢の頭の中に智明への思いが残っているかはわからないが。
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