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智明
「智明、助かったよ。はい、これ気持ちだけど」
高校からの同級生の松田から引っ越しを手伝って欲しいとのことで久しぶりに連絡があった。そして僕はその日、駒沢さんと出会うことになる。
「いや、もらえないよ」
封筒を差し出されたが、さすがにもらうのに抵抗があった。現金とは限らなかったが、おそらく現金。
「いや、ほんと気持ち程度だから。メシ奢るつもりだったけど、時間ないからさ。また帰って来るときにでも」
「じゃあ、遠慮なくもらっとくよ。でも、しばらくは帰ってこれないでしょ?」
「そうだな・・。独身だから色々と使われるだろうし。帰って来れるのは結婚してからだろうな」
「大変だね。でも、体壊さないようにね」
「あぁ、ありがと」
「じゃあ、智明っ。俺ら二人で飲みに行っちゃう?臨時収入も入ったことだしっ」
一緒に手伝いに来ていた樋口は調子よく言ってきた。だが、俺はせっかく入った臨時収入を使いたくなかった。中身がいくらかは知らないが、たとえそれが1000円でも大事なお金だった。
「いや、せっかくだけど・・」
「智明っ、ちゃんとお前の事情ぐらい知ってるから。気にするなっ、ほら、行くぞっ」
「ーーなんかすごい所に入ってくね・・」
「そうか?」
僕ら二人は地元の飲み屋街に来ていた。大通りにある店ならたびたび来たことがあったが、樋口は裏路地のような所に入っていく。営業しているのかわからない店の看板がちらほら見えた。
「ここ、ここっ」
葉奈味、と書いて、はなみ、と読むらしい。一見はスナックかと思う外装。少し重めのドアを開けると、中は想像するより明るかった。
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