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「いらっしゃいませ」
「二人ですけど?」
「はい、どうぞ。奥の方からいいですか?」
かしこまった味処というよりは、田舎の小さな居酒屋という感じか。木の色合いが新しく明るいこともあって、清潔感は感じられた。ただ、最も意外だったのが店主さん。
想像していたのは、定番の頑固おやじに未亡人のおばさん、それから元スナックのママに風変わりなおじさん。それ以外にも想像は膨らませていたが、若くて黒髪の清潔感溢れる男性は想定外だった。
「おしぼりです」
見た目以上にゴツゴツとした大人の男らしい手。しかし、時折見せる笑顔は童心残るような雰囲気がある。
「えっと、お兄さんの方は以前何度か・・?」
「あぁ、そうそう。あの時は先輩と一緒だったからあんまりオーナーさんと話できてないけどね」
「あっ、えっと・・ハラ、カワハラ・・、ん・・カワ・・」
「原中です。あの先輩でしょ?」
「そうそう、原中さん。眼鏡かけて体格のがっしりした」
「ハハっ、あれはがっしりじゃなくてデブですよ。ちなみに俺が樋口でこいつが智明です」
「樋口さんと、智明さんですね。僕は駒沢といいます。智明さんは初めましてですよね?」
「あっ・・そうですね」
「今日はゆっくりしていってくださいね」
駒沢さんの声、笑顔、雰囲気。20代の後半にもなっていながら、変な緊張をしている自分を悟られまいと、相手の顔をうまく見ることができなかった。
「とりあえず瓶ビールいいですか?」
樋口に適当に注文してもらっている時、僕は店内を見渡す振りをしながら駒沢さんの顔を横目で見ていた。髭はきれいに剃ってある。肌は夜の仕事の割には若干日に焼けているようだ。僕は自然とシルエットを想像してしまっていた。
「駒沢さんっていくつなんだろね」
駒沢さんが奥で料理の準備をしている時に、樋口に尋ねるように言った。
「いくつって言ってたかな・・。駒沢さんっ、歳はいくつでしたっけ?」
「僕ですかー?28ですー」
「僕らの一歳上だね」
「あっ、でも、早生まれなんで29の年です」
「若いのにすごいよね」
「いやマジで。イケメンだし。だいたい智明にしてもそうだけど、何が違って俺はこんな顔に生まれちまったんだろ」
「でも、樋口は話が上手じゃん。顔はわかんないけど、高校の時も女子の人気あった方じゃなかった?」
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