智明

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 そんな話をしていると料理が出てきた。  唐揚げ、牛肉の煮物、おしゃれな野菜の入ったサラダにだし巻きの卵焼き。唐揚げはカリカリの竜田揚げ風。煮物は甘辛く柔らかく煮てあった。野菜は自家栽培のものらしい。卵もだし汁多めのふわふわ系。 「うちの実家が農業をしてるんで、空いた土地を使ってちょこちょこ野菜を育ててるんですよ」 「だからちょっと日焼けしてるんですね?」 「ハハ、わかります?日焼け止めとかしてなるべく焼けないようにはしてるんですけどね」 「まずイケメンで、料理ができて、昼は外で家庭菜園。そして、自分の店持ってるなんて女の人が放っておかないでしょ?」 「ハハ、そんなことないですよ。僕は樋口さんみたいに社交的じゃないんで」  樋口の言葉に謙遜するように返していたが、たぶん彼女はいるんだろうなと思うと同時に、男の部分を想像すると、その女性に嫉妬を覚えそうだった。 「ーーもう9時か・・。そろそろお会計お願いします」  妻子持ちの樋口はあまり遅くまでは飲まない。高給取りでありながらそれほどに無駄遣いをしている様子もないのを見てると、えらいなと同級生ながらに思う。 「はいっ、ありがとうございます。  えっと・・4600円です」  僕がお金を出そうとすると、 「いや、智明はいいから。俺が無理やり誘ったんだから」 と、手で制した。 「あ・・、ありがと」 「はい、これ」  樋口は店を出ると、僕に3000円渡そうとしてきた。 「え、何これ?  何かわかんないけど、いらないよ」 「バカ野郎。酒飲んでんだから車じゃ帰れないだろ?代行の足しにしとけ」 「代行くらい自分で何とかするよ」 「いいから貰っとけ。お前の苦労はみんな知ってんだよ。  お前は今は大したことできないかもしんないけど、家のことが落ち着いたら絶対世の中を動かすような存在になる。俺はただお前を応援したいだけなんだ。  黙って受け取っとけ」  僕は迷った。樋口はたびたび僕にそんなことを言ってくるし、普通ではあり得ないほどの世話をやいてくることがある。親切を越えて異常な何かを感じるほどだった。 「・・・・」 「言っとくけど、恩の押し売りしてるわけじゃないからな。  今の俺があるのもお前がいたからだから。逆に恩返しさせてくれ」 「僕は樋口に何かしてあげた覚えはないよ」 「お前が気づいてないだけ。  とりあえず貰っとけ」  僕は結局そのお金を受け取った。 「それじゃあ、ありがたくいただくよ・・。でもーー」 「ーーでもはいらないからっ。その分頑張るって言っとけ」 「・・わかった。その分頑張ってこれ以上の恩返しできるようにするよ」 「うん、それでいい」
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