樋口

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樋口

 高校の入学式当日。  掲示板で自分のクラスを確認して教室に向かう。俺は同じ中学の友達とは別のクラスになった。  教室で話し相手がいない俺は、隣の席に座っていた人に話しかけた。そして、これが智明との出会いだった。 「初めまして、俺、樋口って言います」 「あっ・・、僕は谷って言います。中学の時は智明って下の名前で呼ばれてたけど、あっ、ごめん、どうでも良かったね」 「ハハっ、じゃあ、智明って呼ぶね。俺は樋口って呼ばれてたからそのまま樋口でいいよ」 「樋口くん・・、樋口、樋口・・。ひ、ぐ、ち・・」  俺は智明の最初の印象はかわいい顔してるのに変わってるなという感じだった。 「ハハっ、どうしたの?」 「いや・・、今まで呼び捨てで友達のこと呼んだことなかったから。でも、高校では呼び捨てで呼び合える友達を作りたいなって思って・・。でも、言いづらいから練習を・・、ははは・・」  最初は大人しく口ベタだった智明だが、日を重ねる毎に俺らは打ち解けていった。  そして、3年の秋の終わり頃。 「ーーねぇ、智明。ぶっちゃけ大学どっちがいいと思う?」  俺は模試の判定を見ながら智明に尋ねた。国立のA大学はB判定、同じく国立のO大学と私立のZ大学はA判定。O大学の二次試験には理科系科目がなく、Z大学は試験に理数科目がない。そして、俺は理数科目が比較的苦手だった。 「A大学でB判定ってすごっ」 「いやいや、けど二次のこと考えると迷うんだよなぁ。俺、理数科目苦手だし。堅実にO大学にするべきか勝負するべきか・・。  ぶっちゃけ私立は金かかるし、浪人するってなると予備校に行かなきゃだし。それはそれで金かかるだろ?」  センター試験まであと約3ヶ月。二次試験の前期までは5ヶ月を切っていた。親に迷惑と心配はかけたくない。確実なO大学に心は傾いていた。 「樋口が後悔しないのがどっちか、じゃない?」 「そりゃあ、A大学一発合格が理想だよ」 「じゃあそっちを選ぶ方がいいと思う」  智明の言葉に「軽々しく言うなよ」、と尋ねておきながら内心腹が立った。 「でも、もし落ちたら?」 「後期もあるじゃん」 「でもーー」
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