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「ーーでもはいらないっ。だって樋口の人生はまだまだこれからなんだよ?」
智明は間髪入れずに続けた。
「樋口はすごいんだよ?
勉強ができるだけじゃない。他人のことを思いやる優しさもある。色んな人とコミュニケーションがとれるのも、人の良いところを見つける力があるからだと思うんだ。
O大学が悪いとは思わない。むしろO大学も難関だし。でも、樋口がA大学に行ったらもっともっとすごい樋口になれるっ」
俺は智明が必死に言ってくる姿を見て可笑しくなった。腹立たしさは消えていた。むしろ、何で智明の方が怒ったように言ってくるんだろうと、不思議な興味すら沸いてきた。そして、智明に独特の感性を感じ、この人はすごい、敵わない、と思った。
「ハハ、ありがと。とりあえずーー」
俺は智明をなだめるように返事をしようとしたが、智明の勢いは止まらない。もう、聞いていて笑いしか生まれなかった。
「ーーとりあえずじゃダメっ。絶対っ。
樋口と3年間同じクラスだったけど、こんな人が世の中を動かすんだ、と思いながら僕は樋口を見てた。僕の夢なんだからっ」
智明の剣幕に、教室にいた他の生徒も当然好奇の目で俺たちの方を見ていた。だが、智明はそんなことなど気にする素振りすらなかった。その異様さからか、俺たち二人の間に入ってくる人など誰もいなかった。
「智明、ありがとう。できる限り頑張ってみるよ。でも、やっぱり国立の大学じゃないと俺んちは厳しいから、もし後期まで伸びたらその時はO大学にするわ」
「わかった。けど、僕は数学だけは得意だから、もし何かできることがあったら遠慮なく言ってねっ」
「わかった、ありがとう」
すると智明は急に笑顔になると、漏れ出るように言葉を発した。
「あー、でも楽しみだなぁ。僕も頑張らなきゃっ」
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