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十中八九希望通りにいかない職種選択
自衛隊とひとくくりに言っても、本当に様々な職種がある。パイロットや航空機整備、高射系など、目立つ職種ばかり取り上げられることが多いけれど、他にもびっくりするくらい沢山職種があるのだ。ざっと数えても数十個はくだらない。
私は自衛隊に入る前、説明会で「運動が苦手でも大丈夫! 事務系の仕事や、その他体力系じゃない職種も沢山あるから!」なんて言われて、ああ、それなら大丈夫だろうなと思って入隊した。
結論から言うと若干詐欺だ。
これは入隊してから知った話だが、地本にいる広報官は、身内からは「人さらい」と呼ばれている。いや、本当にその通りだと思う。広報官に「騙された」と言っている人は数多い。いわゆる、こんなはずじゃなかったパターン。
かくいう私もそうだった。私の場合、担当してくれた広報官の方が嘘を言っていることはなかったけど、逆に、ほぼ真実を教えてくれなかった気がする。ここまで職種が思い通りにいかないなんて聞いていなかった。
教育隊期間中の成績と、適正試験のようなものを受けて、各人どの職種に適性があるかが決まる。個人差はあるが、ほとんどの職種に適性がない人もいれば、ほぼすべての職種に適性のある人もいる。
私は後者だった。音楽隊や警務隊といった特殊な職種以外は、全てに適性があった。
全部に適性があるならいいじゃん! って普通は思うだろう。だが、決してそんなわけではない。
例えば、Aという職種があるとしよう。ある隊員は、少し成績が悪くて、かつそのAにしか適性がないが、特にAは希望していない。しかし、別の隊員は、とても優秀で、かつ他全ての職種に適性があるが、第一希望はA。
さて、どちらが優先されるか? それは、Aにしか適性がない前者である。
仕方ないとはいえ、やはり少し理不尽だ。これでは、教育隊で頑張って成績を上げても報われない。
職種の中にも、教育隊時点でははっきり職種が決まらないものがある。例えば、○○系、といった大雑把なくくりにとりあえず割り当てられ、術校でその○○系の基本的な専門知識を学んだ後、適性や成績を考慮してようやく細かい職種が決定する、という感じだ。私はまさにこれだった。
結論から言うと、私のパターンは一番最悪だった。
職種の中には、適性がある人が極端に少ない職種がある。そして、もしその職種に適性がある隊員がいたら、問答無用で、その隊員の希望一切関係なく、そちらに配属される。
私の時は、職種希望調査票で、第8希望まで書かされていたのだが、結局、その8個の希望の中に入ってすらいない、適性のある隊員が少ない職種に割り当てられた。
愕然とした。
以前から、区隊長が言っていた。
「職種はほとんど希望通りにはならない。だから、職種『航空自衛隊』、任地『日本』って考えとけ!」と。その時は笑っていたが、本当にその通りだった。
かくいうその区隊長も、成績が一位ならさすがに希望が通るだろ! と考えて、本当に首席で卒業したのだが、全くもって一切希望していない職種に配属されたという。
だったら最初から希望調査なんてすんなよ!
と思う訳で。
希望通りに行く子は、本当にごく一部。組織側と隊員の需要と供給がたまたま合致しただけ。
そして、班員たちが一番揉めやすいのも、この職種が決まった時期だ。職種決定後は、毎日どこかしらで小さな揉め事が起こっていたような。
他の班から「ほんとに仲がいいね」と言われるくらい、一切揉め事がなかった私の班でさえ、なんと卒業式前日にみんなある拍子に爆発して怒鳴り合いの大喧嘩になった。それはもう——すんごい修羅場。話すと長くなるので、それはまた後日。
とにかく、職種は希望通りにはいかない。希望が通ったらラッキー程度に思っておくしかない。
私は、体力系が苦手だったから、それならばと教練や座学に関しては誰よりも頑張った。元々暗記が得意だったので、座学の筆記試験で、文章を丸暗記して書くような試験では、ほぼ満点だった。
――それが仇になった。
これは単なる私の主観だが、2術校はどちらかと言うと頭脳系が集まっている印象があった。私が配属されたその2術校では、男女ともにやはり頭の良い人たちが揃っていた。
その中で、上位の成績を維持するのは本当に大変だった。2術校職種は様々な種類があるが、WAFに残されていた職種は、たったの4つだった。男子よりも圧倒的に少なかった。
しかし、その4つの中に、私が元々第1希望としていた職種で使う機械の、整備があった。
私は今度こそ、第1希望を勝ち取るため、全ての科目で上位の成績を取り続けた。毎回授業を始める前に行われる小テストではほぼすべて満点を取り続け、本試験でも90点を下ったことはなかった。
――結果、言い渡されたのは、絶対にここには行きたくないと周囲にも教官にもアピールしていた職種だった。
同じ班の他のWAFは、みんな第1希望だった。私だけ第1希望に行けなかった。
4つの中でも、絶対行きたくなかった職種。自分だけ希望外。そのダブルパンチは、今まで何とか前向きに考え続けて、何とか苦難を乗り越えて来た私の精神に大打撃を与えた。
この時からすでに退職を考えていた。必死に頑張った努力が一切無視されるなら、ここにいる意味がないと。
私の場合は、ただ運がなかっただけなのかもしれない。私がその職種に配属された理由は、おおよそ推測出来た。私に原因があるわけではない。とあるWAFを、とある理由でその職種に配属出来ないが故に、代わりに私がそこに行くことになった。
こんなこと言うべきではないが、明らかにその子は私より成績が悪かった。それなのに、私の第一希望に、その子が行った。
その子自身のせいではないし、誰のせいにも出来なくて、どこにもぶつける当てのない私の怒りは増幅していった。
止めを刺したのが、勤務地だった。その職種になった時点で、東京生まれの私には絶望的な任地しかなかったから、すでに諦めていた。部隊に行けば慣れるだろうと思っていたけど、全くそんなことはなかった。
そして、私は退職した。自衛隊に入る前、広報官から、「希望の職種に行けなかったって理由で退職する子もいるよ」と聞いていた。私はその時、そんな理由で辞めるのか、と呑気に考えていた。
しかし、私も結局、それが一番の原因で退職した。今思えば、元々自衛隊の生活そのものに、嫌気が差していたのもあるだろう。
話が少しそれたが、結論は、自衛隊の職種はほぼ希望通りにはいかないということだ。海自や陸自がどうなのかはわからないが、恐らくそう大差はないだろう。
もし、これから自衛隊に入って、やりたい職種がある人は、あまり期待しない方がいいかもしれない。
十中八九希望通りにいかない職種選択、完。
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