胃袋ダイソン化計画

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胃袋ダイソン化計画

 腹が減っては戦は出来ぬ。  この国において一番この言葉にマッチするのはやはり国防を担う自衛官だろう(主観です)。ご想像の通り、量は半端ない。  自衛隊では基地ごとに給養という職種があり、その給養の部隊に所属する自衛官たちが基地の毎日の献立を考え作ってくれている。  基地ごとに名物などもあり、また、そこにいる給養部隊の腕の良し悪しによって食事の味も変わる。腕がいいと、あそこの基地の食堂は美味いと評判になる。  かくいう私がこれまで所属した防府南基地、浜松基地等も美味しい基地のうちの一つだった。個人的には浜松の方がおいしいが。防府は普通くらいか。  美味しいのはいい。いいのだが——  量が異常。  教育隊時代の食事なんて、食べる時間は決まっているから、最初のうちは皆口の中に突っ込むのが精いっぱいで、キャッキャ、ウフフとお喋りなんてしていられない。  あの頃は皆必死だった。ハムスターみたいに口を膨らませて、味わうなんてものではなかった。皆、食事に時間を取られるくらいなら身辺整理(別の話にて説明します)に時間を割きたいので、私の班はまず最初に、何分以内に食べると決めてそれを目標に皆で頑張っていた。  魚が大嫌いな私は、最初こそ、残してはいけないとと思って、無理に全品取って吐きそうになりながら無理矢理口に突っ込んで水で押し込んだり、食べるのが早い班員に食べてもらったりしていた。  しかしある時、食べたくないものは取らなくていいとわかり、食べれる量だけ取るようになった。  メニューが魚の日はメインディッシュ丸ごと抜きになる日もしばしば。しかしそれだと、後の訓練で死にそうになるので、メイン抜きの代わりに、自分で盛る形式だったご飯だけ山盛りにして補っていた。  最初の頃はあまりの量に四苦八苦していた私たちだったが、やがて慣れてくると、今度は周りの食べる速さに焦りだす。  女性でも立派な自衛官である私たちは、さすがに男性自衛官には負けるが、それでも一般人に比べたら量も速さも並みではない。しかし当然、差は生まれてくるもので、私も元から速い方ではあったのだが、上手を行く班員が多く居た為、遅い面子と焦りながら食べていた。  他の班員たちのお盆の上の食事の量をちらちらと伺いながら、「まだ大丈夫だな」とか、「やべぇ、皆食い終わり始めてる!」とか心の中で叫んでいた。  最初こそ、量が多いときつかったが、本格的にきつい訓練が始まると余裕で食べれるようになった。  量が多いので当然カロリーも高いのだが、消費カロリーも尋常ではなく結局プラマイゼロで、標準体型の人が大きく痩せることはあまりない。  ただし、着隊直後のまだ訓練が始まっていない頃はこの量のまま食っちゃ寝生活だった為、私を含め太った人は多数いた。  そして、同期の男性自衛官と一緒に教育を受けるようになる術校では、同じ班になった男性自衛官のあまりの食べる速さに毎日焦って食事をしていた。  びっくりしたのは、少なめに取っている私よりも遥かに大量のご飯を盛りつけているのに、私が半分食べ終わる前に食べ終わってしまう人がいたことだ。胃袋どうなってんだよ! という言葉は飲みこんで、必死になって速く食べているのに、その途中に話しかけてくる食べ終わってる勢には、若干殺意が沸いた。    そんな生活をしているうちに、私の胃袋はダイソン並みの吸引力を手に入れたのだった。  ちなみに、防府南基地は献立をホームページに載せているので、自衛官がどんなものを食べているのか気になる方は是非ご覧あれ。 胃袋ダイソン化計画、完。
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