匍匐前進以外にもいろんなことやってるんですよ

1/1
前へ
/17ページ
次へ

匍匐前進以外にもいろんなことやってるんですよ

 今回はそろそろ、一般の人が想像する自衛隊っぽいことを少し。  自衛隊に入ると、まず教育隊という、自衛官としての基礎を学ぶ部隊に入る。そこでやることは、ざっと分けるとこんな感じ。    ・座学(防衛学、警備、服務、等々)  ・基礎体力訓練(筋トレ、持久走、自衛隊体操、その他もろもろ)  ・各種競技(自衛隊拳法(徒手格闘)、銃剣道、剣道(希望者のみ))  ・教練(敬礼や足の運び、部隊行動等)  ・行進露営  ・射撃  ・射撃と運動(みんなが想像するいかにも自衛隊な訓練。匍匐前進ばりばり)  特に、最後の三つは教育隊終盤に一気にやってくる最もきつい訓練であり、日々生傷が絶えない過酷な期間になる。「進撃の巨人」や「幼女戦記」が他人事に見えなくなるようなガチの軍事訓練。  かなりきついが、一般社会にいたら絶対に体験できないようなことばかりだし、周りには仲間たちが沢山いるので、楽しいと思う人も多い。私も、きつくはあったが辛いとは思ったことはないし、むしろ今まで小説や映画でしか見たことがなかった本物の戦闘訓練の場に自分がいるというだけで、かなりテンションが上がっていた。    それはおいおいじっくり語るとして、今回は入隊初期から行われる座学と基礎体力訓練について。  自衛隊は訓練して匍匐前進してるだけだから、体力と精神力があればなんとかなる! と思っているかもしれないそこのあなた。  とんでもない間違いである。  教育隊で習う事柄は、覚えるだけで別段難しいわけではないが、最初に覚える量はかなり多い。教育隊での成績は職種決定や、部隊に配属された後もずっと影響してくるため、ここで気を抜くと後々必ず痛い目を見る。  加えて、教育隊を終えた後、部隊へ行く前に術校へ配属になった隊員は、更に専門的な知識を学ぶため、術校では逆に座学が一番大変になる。まあ、これは職種によりけりだが。  私は空自の中で最もきつい術校にあたってしまい、訓練も座学も相当きつい所に配属され、泣きを見た。これもまたおいおい。  教育隊やる教科は、読んで字の如くの「防衛学」、戦闘に関しての事柄が多い「警備」、自衛官としての決まりや行事などが細かく書かれた「服務」の三つ(だったような気が)。  教科書はどれも分厚く、しかも使い回しなので個人の物にはならず、書き込みも出来なければ蛍光ペンで線も引けない。その為、教科書には大量の付箋を貼りつつ、ノートもちゃんと書かないと試験で痛い目を見る。  授業は大体、一時間で90分? くらいだったような。とにかくひたすら長かった印象。  先生になってくれるのは、もちろん班長ら全ての教官たち。教官たちは、初めて全員の前に出て授業をするときは、必ずパワーポイントで自己紹介をしてくれるので、この時間は隊員たちによる教官いじりの場になり、とても盛り上がる。  しかし、教官や内容にも寄りけりだが、もしこの座学が、午前のきつい訓練を終えた後の午後にあろうものなら、高確率でみんな睡魔に負ける。  楽しいのは大体最初だけ。慣れ始めると一気につまらなくなる。ここでちゃんと起きて勉強できるか、睡魔に負けるかで今後の人生が決まる――とは言い過ぎだけれども、後々しっかり結果に表れてくる。  入隊したばかりでまず最初に丸暗記させられるのは、自衛官にとっては恒例、「服務の本旨」である。入隊式で、紙を見ながら全員で言う宣誓とほぼ同じ内容。これだけは何度も頭に叩きこんだので、辞めた今でも何も見ずに暗唱できる。というかむしろこれしか覚えてない。  「隊員は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳そうを養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、強い責任感を持って、専心その職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身を持って責務の完遂に勤め、もって国民の負託に応えることを期するものとする」  と、これを何も見ずに暗唱できるのが当たり前になる。  これは、前ページの「台風という名の居室荒らし」にも触れた通り、点検で教官に聞かれる事柄。これ以外にも丸暗記して一言一句違わず暗唱できるようにならなければならない文章が山ほどある。しかも、教育隊終盤に覚えるべき文章はどんどん増える。暗記が苦手な人は死にもの狂いだった。  座学で習うことの中には、外部に漏らしてはならない機密事項も多分に含んでいる。  どれがそれにあたるのかちょっと微妙なので、座学の話はひとまずここまでにしておこう。  続いて、基礎体力訓練について。  なんのことはない、本当にただ基礎的な体力を作るための、いわば一般的な体育の強化バージョンだ。筋トレしかり、駆け足(ランニング)しかり。    ここで習うものの一つで、沸点が低い人なら初見で絶対笑ってしまうのが、「自衛隊体操」である。  動画サイトで調べれば出てくるので、是非見て欲しい。集団でこれをやろうものならそれはもう面白いことになっている。  これを、目の前で教官たちが全力でやるのを見せられる状況を想像して欲しい。  そして、これから自分たちもこの滑稽過ぎる動作を全力でやらねばならないという状況を想像して欲しい。  見たことがない人に簡単に説明すると、ラジオ体操自衛隊バージョン、と言ったところか。  いや、体操とは名ばかりで、もはやこれも一種の筋トレである。  何故なら、準備運動のはずの自衛隊体操の前に、さらに準備運動をしなければならないほど動きがハードだからだ。準備運動をしなければならない準備運動など聞いたことがない。  しかしこの自衛隊体操、滑稽に見えるかもしれないが、全力でやると教官でも息が上がる。毎日これをやっていればかなりいい運動になるし、いいダイエットにもなる←  ちなみにこの自衛隊体操はいつまででも付きまとって来る。なので、ちゃんと順番も動きも言葉も完璧に覚えなければならない。  何故なら、配属された部隊によっては、朝礼などの時、いきなり上官から「お前、前出て自衛隊体操やれ」と言われる可能性があるからだ。当然、上官の命令に服従する義務のある自衛官に拒否権はない。ここでちゃんと自衛隊体操を覚えていないと、相当恥をかく。逆に、新人でもそれがしっかり出来ていると「やるな!」と褒められる。  その他、筋トレに関しては、最もきついとされるサーキットトレーニング、それからインターバル、各種体力測定に向けてのトレーニング、等々。  入隊したばかりの頃はまだそこまで暑くないから楽だが、きついのは6月の真夏日。炎天下の舎前で体育をやるのはかなりきつい。こういう時に強いのは、学生時代にばりばり運動部に入っていた人だろう。文化部勢は瀕死状態(実体験)←  体力測定は、教育隊期間中には2回行われる。  第一と第二があり、第一は腕立て伏せ、腹筋、3km走。第二は斜懸垂(男子は普通の懸垂)、投球、走り幅跳びだ。  それぞれ記録によって級が決まっており、第一の種目の中で最も低い階級が第一の階級、第二の種目の中で最も低い階級が第二の階級になる。  つまり第一で例えると、腕立て伏せで1級、腹筋で1級を取ったとしても、3㎞走が6級だったら、第一の級は6級になってしまうのだ。  ちなみに、成績として見られるのは、この第一第二の級だけで、個別の種目の級は見てくれない。その為、全ての種目で満遍なくいい級を取らなければならないのだ。なかなかにシビアである。    体力測定もずっと付きまとって来るものであり、階級を上げる為にはまずこの体力測定の結果が良くなければ試験さえ受けられない。  特に、私がいた一般空曹候補生は、士長までは自動的に上がれるが、いかに早く曹に上がるかは、普段の勤務態度とこの体力測定の結果で決まる。最短で2年か3年、最も遅くて確か7年ほどだ。これは、その時に自分がいる基地によっても曹に上がれる倍率が変わるので、こればっかりは運にも左右される。  だが、個人的な意見としては、若いうちに曹に上がるよりも、部下をしっかり指揮することが出来、申し分なく仕事が出来るくらい、経験を積んでから上がった方がいい。  あんまり若いうちに上がると、まだ仕事も覚えきっていない状態で、自分よりも階級の低いベテランの隊員に指示を出さなければならないというキツイ状態になる。  優しい先輩ならいいが、大抵は「お前階級上なのになんでこんなこともわかんねえんだよ!」状態になる。下手に階級を上げれば、おいそれとわからないことを全て聞くことは出来なくなる。  話が逸れたが、要するに座学も基礎体力訓練も気を抜いてはいけないということだ。目指せ文武両道、である。    この他の訓練についても随時更新していくので、お楽しみに。 匍匐前進以外にもいろんなことやってるんですよ、完。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

361人が本棚に入れています
本棚に追加