ちょっと役に立つかもしれない格闘技と、使い道がなさすぎる道着

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ちょっと役に立つかもしれない格闘技と、使い道がなさすぎる道着

 作者の職種は何か? 何期の人? というコメントを頂いたのでちょこっと回答。  知り合いにはこれ教えてないのでたぶん大丈夫だとは思いますが、万が一にも個人バレはしたくない(恥ずかしい)ので曖昧に答えます、ごめんなさい。  私の職種は整備職ですが、航空機関係ではありません。航空自衛隊で最もきつい術校で航空機関係ではない整備の勉強をしてた、と言えば、今自衛官の人や元自衛官の人は大まかに見当が付く人もいるかも。  期別は、ここ3年以内に入隊した一般空曹候補生女子のどれかです。なので、ここで書く事柄はかなり最近のもの。ただ、教育隊の厳しさというのは、その時担当している教官たちに大きく左右されるので、めちゃくちゃ厳しかったという人もいれば、全然緩かったという人もいるかと。ちなみに、私の時は、主観ですが緩いと思いました。(術校が厳しすぎて)  さて、話を戻して、今回は教育隊でやる競技について。  前回書いたように、教育隊中にやる競技は、自衛隊拳法、銃剣道、剣道の三つ。ただし、剣道だけは経験者だけが選択してやるものの為、それ以外の隊員は自衛隊拳法と銃剣道の二つしかやらない。  自衛隊拳法とは、言ってしまえばただの格闘技である。教育隊期間中にやるのは本当に基礎の基礎だけなので、ここで教わるのは簡単な構え、突き、打ち、蹴りだけである。  とは言え、基本的には砂利の舎前で、しかも裸足でやるため、人によっては結構きつい。後段の週で朝時間があるときは、朝っぱらから自衛隊体操をやった後に自衛隊拳法、ということもしばしば。  何度も言うが基礎の基礎なので、特に難しい、というわけではない。ありていに言えば「えい! やー!」と言いながらパンチしてキックしてればなんとかなる。目の前に自分の大嫌いな奴がいて、そいつを殴り殺す勢いでやれと教官に言われた時は笑った。しかし、そう想像すると結構楽しい。    銃剣道は、聞いたことがない人も結構いるだろう。かくいう私も、入隊するまでまるで聞いたことがなかった。  64式小銃には、弾が切れても戦えるよう、短剣のようなものを装着できるところがある。その扱いを学ぶために、銃剣道なるものをやるのだ。剣道と違って竹刀ではなく、銃剣の形に造られた木刀を扱う。持ち手が銃と同じになっているものだ。  この銃剣道、私はもの凄く苦手だった。何が苦手って、競技そのものじゃなく、いちいち道着を着て防具までつけるのが本当に面倒くさかった。剣道をやっていた人は道着を着るのも畳むのも、防具をつけるのもお手の物だったけれど、不器用な私は四苦八苦して慣れるまで時間がかかった。  しかも、銃剣道着は、1万8千円(?)くらいで自腹で買わされ、まあ他の中隊の同期たちも買わされているんだろうから仕方ないか――と思っていたのに、後になって衝撃の事実が発覚。  買わされていたのはうちの中隊だけだった。  体育館へ向かう途中、前の時間に銃剣道をやってきたのであろう男性中隊とすれ違った。そんな彼らが着ていたのは、防具はつけていたものの、その下の服は道着ではなくいもジャーだった(教育隊の支給ジャージ。めちゃくちゃダサいので『いもジャー』と呼ばれている)。  あれ!? まだ買わされていないのかな? とみんなが思う中、結局買わされたのはうちの中隊だけと気付いたのは、教育隊終盤の頃だった。いつまで経っても、彼らの方はいもジャーの上に防具という、なんとも滑稽なスタイルのままだった。  自衛隊拳法も、銃剣道も、部隊に行ってもやり続けるかどうか決めるのは個人の自由だ。この先銃剣道をやる気が一切ない面子としては、一万八千円でこの先使う予定のない道着を買わされたというわけで。  しかも、ただでさえ時間ないのに、道着を買わされたせいで、道着を着つつ防具もつけなければいけないという、不器用を殺しにかかってるもはや苦行。  防具に関しては長年の使い回しなので、壊れてるやつもしばしば。記憶が曖昧で定かではないのだが、確か最初に教官から防具1セット受け取って、それに自分の名前を付けてずっと同じ防具を使っていたような。  ちなみに私の防具は運悪く、紐が短く切れており、おまけに手につける手袋みたいなやつ(籠手)も尋常じゃない臭さで若干トラウマ。さすがに後で取りかえてもらえたけれど。  それから、これも強制ではないが、一応段位を取るための試験(有料)があり、悔しいのでそれを受けてとりあえず初段は取った(もう全然覚えてないけど)。まあ、一般社会で役に立つことはないだろうけども……。履歴書に若干箔は付くかな。  最初は、皆で一緒に自衛隊拳法、銃剣道をやって、終盤では自分の好きな競技を選択して、分かれてやっていた。私は剣道経験者ではないし、銃剣道の防具を着るのが嫌だったので、何の迷いもなく自衛隊拳法を選択した。仮に銃剣道が苦手じゃなかったとしても、武器を使って戦うより素手で強くなりたかったので、当初から拳法にしようと決めていた。  だが、やはり自衛隊拳法が一番楽だとみんな思ったのか、拳法だけ凄い人数になってしまった。そして、みんなの考えが読めていた教官は教官で、「お前らこれが一番楽だと思ってんだろ。勘違いすんなよ、一番きつくするからな」と脅して来た。楽だから選んだわけではない人からしたらとんだとばっちりだ。    けれど実際は、体だけを使う競技なので、柔軟性や受け身の習得のために、小学校の体育みたいなマット運動をやった。前転、後転、側転、飛び込み前転、開脚前転後転――などなど。私はマット運動結構好きだったので楽しかったが、苦手な人はひーひー言っていた。  そして、この自衛隊拳法で一番白熱したのは、班ごとに分かれてチームを作り、別チームとぶつかって一対一で戦うという試合だ。みんなかなり本気で、めちゃくちゃ怖かった。なんというか、男同士で喧嘩してる様子よりも、女同士で掴み合って殴り合ってる様子の方が私はよっぽど恐怖を感じる。分かる人いるかな。  銃剣道、剣道組と同じ体育館でやっていたのだが、自衛隊拳法の試合が開始すると、剣道組も教官が早々に終わらせてみんな応援に来た。  自衛隊拳法は床に似非畳を引いてやっていたので、床よりは柔らかいものの、膝を擦ると擦り傷が酷かった。私も試合中、本気になり過ぎて膝を擦りまくって、その時はアドレナリン全開で全く痛くもかゆくもなかったのに、後になってヒリヒリしてかなり痛かった。  自衛隊拳法組は一番人数が多く、課業時間中に試合が終わらなかったため、何と時間を押して夜まで試合が続いた。もはや、拳法ではなく女子レスリング状態だった。相手の背中を床につければ勝ち、というものだったから。もはや自衛隊拳法じゃなくてただの取っ組み合い……。    普段穏やかな子でさえ、びっくりすぐらい本気で殺気立った顔つきでやっているものだから、皆ぎょっとしつつも、自分の班の応援に白熱した。教官たちも大声出して応援していた。恐かったけど物凄く楽しかった気がする。ちなみに私は全勝した。凄くいい気分。  それでも残念ながら私の班は準優勝だったが、後で班長がご褒美にアイスを買ってくれた。    辞めた今じゃ自衛隊拳法も銃剣道もやる機会がないけれど、良い経験になった。  ちなみに銃剣道着は、辞めた今完全に使い道がないので、もちろんタンスの肥やしになっている。    ちょっと役に立つかもしれない格闘技と、使い道がなさすぎる道着、完。
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