1/1
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

 見かけだけで理解できる存在ならば、オレはこんなにも悩むことはなかっただろう……。  そうなんだ、彼女は『ゴースト人間』ってヤツで、いきなり目の前に現れたんだ。  そのうえ、いつも寄り添ってくるから始末に悪い。  だが、幽霊ではない、紛れもなく生きた人間なんだと本人は言っている。  少し、身体が透き通っているというだけの厄介な特性の持ち主なんだ……、らしい。  確かに手を握ることができるのだから肉体はあるにはある。  おまけに、ケバケバのお水そのものの化粧がド派手過ぎて、羞恥心の塊のオレは、他人の視線が気になって気が気ではないのだった――。  そりゃ、若いよ。オレより二十才くらい若いかなあ。  ならいいじゃないか、ハッピーこの上ない人生だなって、あのなあ、オレは四十過ぎた中年サラリーマンの真面目なオッチャンなんだぞ!  目の前で、ヘラヘラ笑いながらビールを飲んでいる幼馴染のテツオにオレはボヤいていた。 「いいじゃんいいじゃん。透けてようと、ゴーストであろうと人間の女だと言っているんだし、ユースケ、お前独身なんだしさあ。この際、彼女と結婚でもしたらどうなの」  テツオは、そう言いながら今もベッタリとオレに寄りかかっている『ゴースト人間』を眺めた。 「けっこう可愛いじゃないの」  テツオの声に寝ていたはずの彼女が反応した。 「ありがとー」 「へえー、口きくんだ。さっきまで、何も言わなかったのに」 「当たり前だろ、本人は人間だと言っているんだ。けど、記憶喪失なんだよ」  さして驚きもせずテツオは、 「う~ん、そういうことは、たまにはあるもんなんですねぇー」  と言いビールをまた口に運んだ。  ――コイツは、昔から何があっても驚かない野郎だったな。  そう思いながら何気なく周囲を見渡した。  ここはテツオの行きつけの『赤い薔薇の麗人』というバーだが、常連客で店内は満席だった。  けど、不思議な事に誰も、彼女を気にもかけてない様子である。  彼女のことが見えてないのか?  いや、そんなわけはない。テツオには見えてるんだし、周りの客達にしても透き通っているのは理解しているはずだ。  なのに、何で騒ぎにならないわけ?  ちょっとは気付くよな、そのほうがフツーの状況でしょう。  ねっ、誰か、何か言ってきてよ。  ホント、困ってしまう。人目を気にするタイプのオレは、けっこう落ち着かないのだった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!