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見かけだけで理解できる存在ならば、オレはこんなにも悩むことはなかっただろう……。
そうなんだ、彼女は『ゴースト人間』ってヤツで、いきなり目の前に現れたんだ。
そのうえ、いつも寄り添ってくるから始末に悪い。
だが、幽霊ではない、紛れもなく生きた人間なんだと本人は言っている。
少し、身体が透き通っているというだけの厄介な特性の持ち主なんだ……、らしい。
確かに手を握ることができるのだから肉体はあるにはある。
おまけに、ケバケバのお水そのものの化粧がド派手過ぎて、羞恥心の塊のオレは、他人の視線が気になって気が気ではないのだった――。
そりゃ、若いよ。オレより二十才くらい若いかなあ。
ならいいじゃないか、ハッピーこの上ない人生だなって、あのなあ、オレは四十過ぎた中年サラリーマンの真面目なオッチャンなんだぞ!
目の前で、ヘラヘラ笑いながらビールを飲んでいる幼馴染のテツオにオレはボヤいていた。
「いいじゃんいいじゃん。透けてようと、ゴーストであろうと人間の女だと言っているんだし、ユースケ、お前独身なんだしさあ。この際、彼女と結婚でもしたらどうなの」
テツオは、そう言いながら今もベッタリとオレに寄りかかっている『ゴースト人間』を眺めた。
「けっこう可愛いじゃないの」
テツオの声に寝ていたはずの彼女が反応した。
「ありがとー」
「へえー、口きくんだ。さっきまで、何も言わなかったのに」
「当たり前だろ、本人は人間だと言っているんだ。けど、記憶喪失なんだよ」
さして驚きもせずテツオは、
「う~ん、そういうことは、たまにはあるもんなんですねぇー」
と言いビールをまた口に運んだ。
――コイツは、昔から何があっても驚かない野郎だったな。
そう思いながら何気なく周囲を見渡した。
ここはテツオの行きつけの『赤い薔薇の麗人』というバーだが、常連客で店内は満席だった。
けど、不思議な事に誰も、彼女を気にもかけてない様子である。
彼女のことが見えてないのか?
いや、そんなわけはない。テツオには見えてるんだし、周りの客達にしても透き通っているのは理解しているはずだ。
なのに、何で騒ぎにならないわけ?
ちょっとは気付くよな、そのほうがフツーの状況でしょう。
ねっ、誰か、何か言ってきてよ。
ホント、困ってしまう。人目を気にするタイプのオレは、けっこう落ち着かないのだった。
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