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個別指導
少年は車内で職員と押し問答を繰り広げた。
30分も過ぎた頃、無駄だと悟り沈黙した。
しばらくすると見慣れた風景が広がる。
叔父に連れられタクシーで走った桜並木の道だ。
公用車は一時保護所へ向かっているようだ。
そんな予感は的中し一保の玄関前で停車した。
「降りるんだ」
運転席の職員がそう言うと両サイドにいる職員が少年の両肩を掴みながら降車させた。
その後、児相の職員から一保の職員へ身柄の引き渡しが完了すると児相サイドは職員詰所へ引き上げていった。
「また帰ってきたのか」
一保の職員が少年の背中を慰めるように叩く。
「こんな社会で死んだように生きて何になるんだ」
少年は声を震わせながら応える。
「今日はもう遅いからシャワーを浴びてすぐ寝ろ」
少年がシャワーを浴び終えると見慣れないジャージと下着が置かれていた。
一保では緊急保護に備えて官品(通称:貸与品、貸出衣)と呼ばれる貸出衣類がある。
少年の所持品を後日調べる為、鞄一式は児相が抑えている。その兼合いで官品を貸与したのだろう。
少年は官品に着替えると職員に案内され居室へ通される。だが、以前入所していた時と部屋が異なる。
「児相の調査が完了するまで個別指導扱いだ」
職員はそう説明した。
個別指導とは問題を起こした入所者を隔離する措置の事だ。内部では「個別」や「懲罰」と呼んでいる。
少年は自分が置かれている立場が「腫物」なのだと痛感した。
「社会に俺の居場所はもう無いんだろうな」
少年は居室のベッドで枕を濡らしながら床に就いた。
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