転学前夜

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転学前夜

転学試験数日後、少年のもとに合否結果が届いた。 「転学試験の合格をここに認め、当校への入校を命ずる。」 辞令のような合格通知だ。 通知発令二日後が退所日だと児相職員に告げられる。 「娑婆の空気を吸えるのは嬉しいが急すぎやしないか?」 「2学期の始業式に間に合わせたい。どうせ荷物も少ないし良いだろう。」 どうやら事務的な都合があるようで、こんなにも急いでいるらしい。 少年は少しうんざりしたが、退所できる喜びの方が上回ったので何も言わなかった。 退所の日を迎えた。 「もう帰ってくるんじゃないぞ。」 「ああ、今度はうまくやるさ。」 少年は先生と別れを告げると公用車で礼場へ向かう。 到着後、里親夫妻に少年の身柄を引き渡すと児相職員は急ぎ足に帰っていった。 少年は宿舎の1ルームで荷ほどきをする。といってもエナメルの鞄一つなので、ものの数分で完了してしまった。 「すぐに終わってしまって張り合いがないな。だが少し疲れた。」 少年はそうつぶやくとそのまま床に就いた。 翌日、婦人に連れられ制服類の受領に向かう。 学校指定の制服は海軍型詰襟と呼ばれる紺色の被服だ。 ボタンがなくホックで留めるようになっている。 気慣れない制服に戸惑いながらも袖を通す。 「良く似合っていますよ。」 婦人が少年を褒める。 「いや、そんな、照れますね。」 少年は赤面した。 だがその日は8月31日 翌日から新学期だ。 「今年の夏は色々あったな。」 少年はひと夏の出来事に想いを馳せながら、新生活の始まりを待った。
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