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第4話 追跡
寒々しい霧を吹き飛ばして、真紅の飛竜が舞い上がる。暗い空に、それは強烈な存在感を示していた。ロンドンが深い霧の底にあるのでなければ、大騒ぎになったことだろう。あるいは、誰も自分の目を信じないか、何かの映像技術によるとでも思うか。
飛竜の背中は広く、ゆったりと飛んでいることもあって、乗り込んだピサールとオイフェも落ち着いた様子だ。だが、苦々しげにピサールが言う。
「どこへ行きやがったか分かるか?」
「……んとね。わかるよぉ」
と、オイフェの間延びした返事だ。「小さな影を付けておいたからぁ、あっちの方でぇ……ぐぅ」
「寝てんじゃねぇ! 落ちるぞ、バカ!」
「あー、バカって言った? ダメなんだよ。人をバカ扱いしちゃ。オイフェ、バカじゃないもん」
「わかった、わかった。どっちだって?」
「だからぁ、あっちだって。テムズ川を……ぐぅ」
「だから、寝るなって」
「ぶー、しょうがないじゃない。影を使うのって疲れるんだよぉ。いつもハツラツとしてるオイフェさんが、ぼうっとするのもムベなるかなだよ」
「いつも、ぼうっとしてんだろが。俺とお前じゃ、なかなか話が進まんな。やれやれだ」
「だよねぇ。それならぁ、誰か乗ってるからぁ、その人と話してみたらぁ?」
「……誰か? この飛竜にか?」
周囲を見回したピサールと目が合った。二人の様子を僕が語れたのは、舞い上がる飛竜のしっぽに掴まってついて来たからなのだ。二、三度、危うく落っこちそうになったが。尻尾から背中まで這い上がり、どっこらしょと腰を下ろすと、ピサールが驚きと警戒の声をあげた。
「さっきの小僧か。なんだ、お前!」
「お気になさらず。しがない骨董屋でござんす」
「いやいや、飛竜に乗り込む馬鹿なんて、そうそうおらんぞ」
「銀髪の少女を追っているんでしょう? ちょっと個人的な用事があってね。早く追わないと、逃げられちゃうよ」
「仕方ねぇ。落ちてもしらねぇからな」
「ご心配なく。保険には入ってますから」
「飛竜から落ちましたってか? 出るわけないだろ」
「そんな馬鹿な! 傷病特約もつけてあるのに?」
「……出ねぇよ。俺の周りは馬鹿ばっかりかい」
「僕は違うぞ!」
「オイフェも! バカじゃないもん!」
「わかった、わかった。お利口なオイフェさん、どこへ向かえばいいか教えてくれ」
「うんうん、教えてあげるぅ。オイフェさんに任せなさい。最初からすなおに言えばいいのにぃ。あいつらがいるのはぁ、ロンドン塔のそばだよぉ」
「よし! エヴァ、聞いていたな。行くぞ!」
呼びかけられた飛竜が向きを変え、ようやく判明した目的地へ向かった。
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