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 最近まで腰にコルセットを巻いていたばぁちゃんだったが、十一月に入ってからはコルセットを外している。ばぁちゃんが晴れやかな声音で言った。   「ああ、すっかり秋だね」  今日、僕は、じぃちゃんとばぁちゃんと三人で紅葉で有名な寺に来ている。ここは、ばぁちゃんの知り合いのお寺だ。車椅子の人も入れるので、じぃちゃんの車椅子の背中を僕が押してあげているのだ。  じぃちゃんと、僕と、ばぁちゃん。三人が寄り添って紅葉を眺めているうちに、心がジンと温かくなるのを感じていた。  昔、僕が、閻魔大王様を見て泣き出した時、じぃちゃんは僕を背負ってくれた。  いつか、僕が、じぃちゃんを背負えるようになりたい。今よりも、もっと強くなりたい。この先、僕が、じぃちゃんの手を引いて歩くよ。   「トオル、あんた、そんな薄着で寒くないかい?」 「平気だよ。ばぁちゃんこそ、寒くないの?」 「あたしは平気さ。でも、妬き芋が食べたくなったよ」  寺の駐車場には妬き芋を売る車が止まっていた。そこは大勢のお客さんが列をなしていた。地元の人や参拝客の両方か、ホクホクの芋を頬ばっている。  じぃちゃんが、その光景をじっと見つめている。僕はピンときた。じぃちゃんは妬き芋が大好きなのだ。お芋を食べてから帰ろう。  ヒュンッ、ヒュンッ。頬が冷たい。秋風は少し寂しい。だけど、みんなと一緒だと泣きたくなるような何かが胸に広がっていく。 「僕、買いに行くよ。ここで待ってて」  言いながら、僕は軽快に駆け出していく。ホカホカの湯気を見ていると幸せな気持ちになる。  紅葉や銀杏が燃え盛るように美しく発色しており、見上げた秋の空はどこまでも高く澄んでいた。    おわり    
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