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ーは?ー
ゲーセンでワニの頭を叩きまくっていた男の最後の思考はそれだった。これは別に彼が凡庸だったからではなく、その場に立ち会えば誰だってそう思うだろう。そして、男は疑問で頭をいっぱいにしたまま、ワニワニ◯ニックの躯体から踊り出てきた正真正銘の鰐に上半身を食い千切られ、絶命した。
ここは東京のとあるゲーセン、隅の方に置いてあるワニをひたすら叩くだけのアナログゲームの躯体から、人には聞こえない会話が漏れ出ていた。
「毎日毎日頭叩かれてさ! もーやだよワニ太」
「わかってる。俺だってやだよ、ワニ美。でも俺たちに何が…まてよ! 倉庫で出荷を待つ間に聞いた噂がある! …みんなこっちに来てくれ! 一緒にこう唱えるんだ!!」
『ワニの神様、ワニ神様、私たちのお願いきいて下さい! どうかこの苦しみから解放して下さい! 頭を叩かれるだけの私たちを助けて下さい!』
彼ら6匹の言葉はゲームセンターの中の激しい音楽にかき消され、彼らの前にはどんな奇跡も、救いも、その鱗片すら現れなかった。ゲーム機の中にしん、とした空気が流れる。
「…やっぱり、本物の鰐じゃないと駄目なんだ。ただのゲーム機のワニなんて、神様も助けてくれないんだ」
「しぃっ、ワニ吉! 金曜日のあいつが来たよ! ゲームが始まる」
チャリン。百円玉が入れられて、ゲームが始まる。音楽が鳴りだし、ワニ達はプログラムに従って、ゲーム機から首を出し入れし、男に頭を叩かれるのを我慢していた。…そして最後のワニ子の順番が来た。ワニ子が、頭を叩かれるために外に出ようとした瞬間、ワニ子専用のトンネルが光った。そう、そこからワニ子の代わりに外に出たのは、全長5mははあろうかという本物の鰐で、そして…。
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