イースト【奪還】

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 幕雷は、白糸を乗せたまま静かにその船体を波に揺らしていた。  さっきまで月明かりが照らしていたその姿は、華々しく開戦を告げたイースト地区の街灯の影に再び隠れている。 「……白糸です。こちら、予定通り1月20日20時、開始しました。イースト地区については既に現地制御室からのオペレーションを確立、これから外部通信の回復とセキュリティ処理をするところです。イースト奪還は硬いでしょう。……ジョバル側はどうなってます?………え?」  携帯端末に向かって話す白糸の顔が険しくなった。 「軍隊出身!?………そうですか。はい……。」  白糸は携帯端末を持たないほうの手をぐっと握った。深呼吸をする。 「あの、長官、やはりこんなこと間違ってる。俺、私なら……」  通信は唐突に切れた。 「チッ、…。」  港湾の壁面には、船から漏れた光が波に反射して、ゆらゆらと綾を織るように明暗が映る。繰り返し揺れる船の振動は最も酔いやすい速度だったが、白糸は全く船酔いをすることが出来なかった。 (どうか早く。早く終わらせてくれ。誰も死ななくて、済むように。)  シャツの上から、首元にかけた3つのメモリを、ぎゅっと握った。
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