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「バーク!コンレイ!おかえり!!」
サワン港湾、イースト地区の一角。打ち捨てられて空になったコンテナのひとつに、10人ほどの少年少女と、盲目の男が一人住んでいた。
「はい、みんなの分、あるよ!今日は大量!!」
顔を隠していた布を取ったコンレイに、皆が群がる。盗んで来た食料は、全員に渡しても十分な量だ。
「りんご、菓子パンは小さい子で分けてね!タタ、プロド、おっきい子は後でお魚あげるから待って!」
大体5歳〜10歳くらいの孤児で、栄養が足りておらず皆背丈は小さい。そのため、14歳と15歳のコンレイとバークはひときわ大きく"大人"に見える。聡明で明るいコンレイ、寡黙だが強く頼もしいバークを、皆が尊敬し慕っていた。
「いつも悪いな、コンレイ。助かるよ。」
「ううん、みんなが笑顔なのはダンのおかげ。」
両目に布を巻いた男は、ダンと言った。まだ若く30代半ばらしいが、盲目で若干足も悪い。もともと市場で物乞いをしていたようだが、1年ほど前から、コンレイ達が暮らしていたこのコンテナで寝泊まりするようになった。普段は市場とこのコンテナで過ごし、子供らに色々なことを教育してくれている。そのため、皆スラム出身にも関わらず、字を読み、書くことが出来るようになっている。
「みんな、今日は何を教えてもらったの?」
「この国のれきしー!」
「むかしのおはなしー!」
皆、口々に答える。
「ジョバルは僕が生まれた年に出来た新しい国なんだって!ほんと?」
9歳のタタが、コンレイの顔を覗き込む。コンレイはにっこりと頷いた。
よく、覚えている。それはまだ5歳だったコンレイが、バークとともに親から捨てられ、軍隊に入れられた年だったからだ。街中は新しい独立国家の設立に沸いていた。しかし、もとの国から切り離された市民の中には、反発感情があったのかもしれない。コンレイとバークの両親は、幼い二人を残してジョバルを離脱した。
軍隊の未成年部隊は、孤児院も兼ねていた。全部で100人もいなかったように記憶している。
来る日も来る日も、トレーニング、狙撃訓練、戦闘訓練、寝て起きてまた訓練……。子供らしい遊びなんて、寝る前に天井に描く妄想くらいだった。それでも二人は、兄妹でそれをよく耐えた。
平和的に独立した先進技術立国を目指す国が、何故未成年まで徴兵しなくてはいけない?そう問いながら。
2年前、ついに耐えきれなくなった二人は軍隊を脱走し、スラムへと身を隠した。すると、周りには同じように孤児で、しかも軍隊にすら送られなかった貧相な体格の子供たちがたくさんいることを知る。そうして子供を集め、市場から食べ物を拝借しながら生活をし、今に至る。
サワン港湾のコンテナを住処に選んだのは、ここによりつく人がほとんどいないからだ。何故なら、完全無人を売りにしたこの港湾は、陸側のゲートを始めどの地区も厳しく警護されていて、常に武装ドローンが徘徊している。街の誰もが、誰も入れないと思っている。しかしある日コンレイとバークは、何故かドローンが未成年には武器を使用して来ないことに気付き、侵入したのちに廃コンテナが捨てられている一角を見つけた。しかもここには、市場と繋がる安全な抜け道もある。それ以来、ここは、最も安全な場所と化した。
「バーク、コンレイ、ちょっと良いか。」
子供たちが食事を終えて寝床に入り、やっと自分たちの食事に手を付けた二人に、ダンが声をかけた。
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