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まず耳に入って来たのは、バークの撃った機関銃の連続音と、それが制御棟の扉に当たる金属音だった。
少し遠くから聞けば、最速で踏まれたミシンのような些細な音だったのかもしれない。しかしコンレイにとってそれは、胸をかき乱すに十分の激烈な音だった。
そして、バークがドアを蹴り破り中へ入ろうとした瞬間、機関銃よりももっと軽く乾いた音が、ダダッ、ダダッと2回鳴った。
音は建屋の中ではなく建物の下の地面から聞こえたが、そちらに視線をやるまでもなく、コンレイの目はドアから視線を離すことが出来なかった。
何故なら、後ろ向きにゆっくりと倒れたのが、他ならぬバークだったからだ。
悲鳴のような声で、バークの名を呼ぶ。
バークはそのまま倒れると、かろうじて階段の手摺を右手で掴んだが、体は投げだされて、宙ぶらりんの状態になった。左手は機関銃を持ったまま、だらりと垂れている。腹部のあたりから、真っ赤な血がポタポタと垂れている。
コンレイは初めてそこで、バークを撃った犯人を目で追った。それは、たった1台のドローンだった。バークがいる場所に向かって、その1台だけが銃口を上に向け、その噴煙を伸ばしている。
しかし、気付けば、その1台を含む全てのドローンのランプが消えて、動きを停止している。どうやら電源が落ちているようだ。
コンレイは機関銃を背中に担ぎ、コンテナを飛び降りてバークのもとへ走った。
早く、早く助けないとバークが落ちてしまう。いくらバークでも、撃たれた状態であの高さから落ちたら命の保証は無い。
やっとの思いでグラウンドに降りて建屋を見上げる。
すると、真っ赤な服を着た少年らしき人影とオレンジ色の犬が扉から飛び出して来た。
「ダメ!バークを殺さないで!!!殺さないで!!!!」
コンレイの叫び声は、もう言葉にならなかった。
ひたすらに、走る。
少年は、どうやら手すりを乗り出してバークの腰に手を回している。落とすつもりか。
「嫌ぁぁぁ!!!」
コンレイは、階段のふもとにたどりつくと少年に機関銃の照準を合わせ、数発撃った。
少年の体は横にのけぞり、倒れた。
それを見たコンレイは、階段を駆け上がる。
すると、さらに一回り大きい黒いつなぎを来た男が扉から現れて、少年を担ぐのが見えたので、立ち止まり照準をその男の頭部に変えた。
しかし、振り向いたその男と目が合った瞬間、コンレイは引き金を引く事が出来なくなった。
男は、とてつもなく悲しそうな顔をしていた。
男は目を合わせたままこちらに降りてくる。時折赤い血を垂らしながら。担がれた少年は意識を失っているようだが、死んでいるのかどうかはわからない。私は殺したのだろうか?担いでいる男は、よく見るとこちらも少年のようだった。髪の色は複雑な灰色で、これがニホン人なのかどうか、判断がつかない。動けないでいるコンレイの横まで来ると、何かを言いかけて口をつぐみ、そのまま下って行った。
そしてその先には、バークが左手の機関銃をその男に向けているのが見えた。
「バーク!!!撃たないで!!だめぇぇぇ!」
自分でも、何を言っているのかわからない。でも間違いなく、背後に通り過ぎた敵は、おそらくもう我々を撃たないだろう。それだけは確信がある。
持っていた機関銃をかなぐり捨て、階段を最上階まで登る。そして、バークの手を掴んだ。
恐ろしく冷たい、こわばった手。
手すりを乗り出し、腰に手を回して踊り場へと引き上げる。
「バーク!!バーク!!しっかりして!!!」
出血は腹部だけのようだ。急所は外れている。しかし、出血が多過ぎる。
コンレイは自分の服を破り、バークの腹部を結ぶようにして止血する。バークはまだ呼吸をしていたが、もう意識は無かった。
もう十分に身体の大きい兄を担ぎ上げ、コンレイは階段を下った。
そして、もうピクリとも動かないドローンを無造作に避けながら、コンテナの上ではなくグラウンドのど真ん中を、真っ直ぐと帰り道へ向かった。
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