愛の致死量

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愛の致死量

全てのものは毒である。それが私の考えだ。毒物を摂取したら毒になるのは当たり前。けれど醤油を1本飲むと死ぬと言われているように普通に食べている物だって、摂りすぎれば毒になりえるのだ。好きなもので体を壊すとはよく言ったもので、好きなものを多めに食べるから許容量を超えるのだと思う。水だって一気に摂りすぎたら死ぬだろうし、個人的には寿命なんて酸素が体の許容量を越えたりすることが一因で迎えるのだと思っている。  そんな私は目の前に座って、私の手料理を頬張る彼を見つめる。私は彼が好きだ。愛している。結婚して一緒に暮らしているのだから当たり前かもしれない。全てのものは毒である。彼は私の愛がたっぷり詰め込まれた食事を食べるのだ。毎日の摂取量を考えたら一番多く摂っているのは私の愛だと思う。しかも私の愛は食事から摂取されるだけでは留まらない。なぜなら私は料理をしている時以外もずっと彼のことが好きだからだ。彼と私の住む家にはそれこそ空気中に私からの愛が溶け込んでいるに違いない。全てのものは毒である。彼が死んでしまうなら、それはきっと私からの愛が過多になって死んでしまうのだろう。 「食べることは生きることだよ。」 そう言った彼は一口サイズに切ったハンバーグをその口に放り込んだ。ああ、また私の愛が摂取されてしまう。そんな私の気も知らずに彼はハンバーグを咀嚼して飲み込んだ。 「美味しい。」 そう言って貰えるのは嬉しい。合いびき肉を使って作ったハンバーグ。肉汁とソースとケチャップを合わせたソースまで私が頑張って作ったものだから。 「食べるものは生きるものだよ。」 生きている僕が生きていたものを食べるんだ。彼はそう言って笑った。 「君の考えを否定する気はないけれど」 彼はもう一口ハンバーグを口に運ぶ。噛んで、飲み込んで、食べる。身体の一部にしてしまう。 「僕は食べているから生きているんだと思うよ。」 口の周りについたソースを舌がぺろりと舐める。 「確かにいつか、君の愛で僕は死んでしまうかもしれないけれど」 ナイフとフォークを置いて彼は私に笑いかけた。 「僕は今、君の愛で生きているんだ。」 私はその言葉に目を見開いた。 「きっと僕が死ぬのは君の愛を食べることが出来なくなったときだろうなあ。生きている君の愛を、食べられなくなった時に僕は死ぬんだろうって思うよ。」 だから安心して、僕を愛して良いんだよと彼は笑った。好きなものを食べて死ねるなら、それはそれで幸せだしと言った。 ああ、やっぱり好きだなあと私は思ってしまう。私の不安を知った上でそれでも一緒にと望んでくれる彼が、どうしたって好きなのだ。 彼はすっかり晩御飯を食べ終わり、私も続けて食べ終わった。彼は席を立つと私に微笑んだ。 「デザートには俺の愛が詰まってるんだ。食べてくれると嬉しいな。」 私は笑って頷いた。
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