文字も食べる

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時代は進み、年号が2つ変わったころ、スマホが普及した。 本のように分厚くなく、手軽に文字を摂取できると大人気になり、電車の中にはスマホを見る人であふれた。 スマホなら好きな味を選ぶことができる。グルメサイトなんて美味しすぎて大人気だ。SNSで気軽に自分の好みの味を投稿できるし、動画サイトのコメントには、同士がいて楽しい。 食欲だけでなく、心も満たしてくれる。そんな素晴らしい機器の登場に人間たちは喜んだ。しかし、それは最初だけだった。 SNSには無意味に他人を攻撃する人であふれ、「炎上」という言葉がはやった。炎上した文字は食べるとやけどをしてしまう。食べたときにはなんともないのに、その後で「炎上」してしまうと、急にお腹の中で炎のような熱さが襲ってくる。どれが「炎上」するのか投稿された瞬間にはわからないから恐ろしい。一見いいことや感動することを書いてあっても、誰かにとってそれが気に入らなければ「炎上」してしまう。「炎上」したものを食べた人は、三日三晩苦しんで精神的にも追い詰められた。 動画サイトのコメントだって、すぐに美味しくなくなった。罵詈雑言であふれて、どの動画も、ただただ不味いだけだ。 人間は文字を食べるのをやめていった。スマホを見ると気分が悪くなる人が多くなったからだ。しかし、スマホで連絡を取ったり情報を得たりすることが当たり前になっていた時代、スマホなしの生活はすでに成り立たなくなっていた。スマホを使うと文字を見てしまう。食べなくてもそれがどんな味かわかってしまう人間たちは、苦しげな表情でそれを見つめるのだった。
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