夢喰いが来た。

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夢喰いが来た。

「ふぅ……嬉しいんだけど、片付けるの面倒ね……嬉しいんだけど。 うわっ、これなんか超高いんじゃないの!? すごぉーい……やっぱり最近流行りのIT社長ともなると友達もセレブばっかりなんだなぁ……あたし本当にツイてるわぁ……」 高級ブランドのロゴばかりが目に付く結婚祝いの山から一つずつ取り出しながら息をつく。 新婚旅行は一週間のドバイ、夫は日本へ戻ると家にも帰らず今度はその足で仕事のためにネパールへと旅立った。 「玉の輿なんて今時まだあるんだなぁ。 夢、叶っちゃったなぁ。 ヤバいよねぇ、あたしなんかがこんなことになっちゃって……。 超ラッキー、もういつ死んでもいいわぁ……」 一通り中身を確かめ終えると、片付けもせずにふかふかの絨毯の上に寝転がる。 「部屋がこれだけ広いと片付けとか焦らなくてもいいんだなぁ……。 ってかなんならハウスキーパー呼んじゃえばいいだけだって言うし……」 しばらくうっとりぼんやりと高い天井から吊り下がる豪華なシャンデリアを眺めていたが、その時突然シャンデリアの隙間から、 「じゃじゃーん!!どぉーもぉー!!夢喰いでぃーっすっ!!」 元気いっぱいに声を張りながら何か白いものが発生し私の顔に落下してへばりついた。 「ふごぅっ!?なになになに!? ちょっと何これ動物!? 怖いキモい!!ちょ……っとぉ!?」 何とか必死に引き剥がして投げ捨てるとそれは壁にべちゃっとぶつかって倒れたものの、すぐに立ち上がってこちらに突進してきた。 「いやあぁぁあーっ!?殺虫剤どこ!?怖いキモい!!」 「まぁまぁ、そういうのいいから、大丈夫だから」 「しゃべってるしぃー!!キモい怖い怖いキモい!!」 「どぉーもぉー!!改めましてこんばんはー!夢喰いでぃーっすぅー!!」 怯えて立ちすくむ私の手前で急停止して背筋を伸ばし満面の笑みで見上げてくるそれは、手のひらに乗るほどの裸の赤ちゃん……のようでそうでも無い、なんというか、漫画でしか見たことは無いが、もしかしてまさか、 「よ……妖精……?っていうか……よく見ると……かわいい……」 後ずさりながらもその極めてメルヘンな生物だか幻覚だかをしげしげと見詰める、が、 「ブッブー、妖精違いまーす!夢喰いでーす! 人間の妄想する夢を喰らって暮らしている愉快でかわいい形而上生物(けいじじょうせいぶつ)でーっす! なので人間が夢を無くすと腹が減ってイライラしちゃって、こうして本体の方を喰いに顕現しまーす!」 「は?何言って……」 「というわけで……いただきまぁーっす!!」 わけがわからず混乱している私の前で相変わらず元気いっぱいにご挨拶をした妖精は、その体のサイズ感を完全に無視していきなりがばっと私の身長よりも大きく口を開き一歩前に進み出た。 「ぎぃやぁああーっ!? 何これ何よキモい怖い―っ!! クリオネの捕食シーンみたいだよぉーっ!! やめてよぉ!?夢なんか無くして無いわよぉ!! むしろ本当に幸せな夢いっぱいの人生はこれからよぉ!! やっと最高の人と最高の暮らしを手に入れたんだから!! やめてよぉー!!うぇえーん!!」 腰が抜けるなんてことが本当にあるものだ。 私は全身の力が抜けてその場にへたり込み床に突っ伏して大声で泣き崩れた。 「え?そうなの?誤爆?っかしいなぁ……。 でもさっき君『夢、叶っちゃったなぁ、もういつ死んでもいいわぁ』的なこと言ってなかったぁ?」 化物は口を元に戻し、再び妖精みたいな顔をして首を傾げた。 「えぐっ……ひぐっ……言ったけど……そういう意味じゃ無いわよ……そのぐらい幸せだって例えみたいなもんよ……」 「えぇー?そうなのぉー? なんだよぉ、紛らわしいこと言うなよなぁ。 顕現損だよぉ、恥ずかしいなぁもう……。 あぁ、でも確かに、言われてみればなんか腹もそんなに減ってない気がするなぁ……」 自分の腹を手で押さえさらに首を傾げるが、 「うぅーん……じゃあまぁ、いっかぁ……。 オッケー、じゃあねぇー!!バァーイ!!」 勝手に納得すると元気良く手を振り走り去りながら、空間へと溶けるように姿を消していった。 しばらく声も出せずに呆然とそれが消えた辺りを眺めていたが、 「う……うぅーん……急に生活も変わっちゃったし、なんか疲れてるのかしらね……。 こんな最新最強のタワマンの高層階が心霊的な事故物件なわけないし……。 あぁ、夢よ夢、あたしきっといつの間にか寝てたんだわ。 そうそう、じゃあとりあえず寝起きの一杯やって二度寝しよ。 見たことも無いすごいワインもいっぱいあるしねぇ。 『好きなの自由に飲んでいいよ』って、あれ本気かしら。 あたしの酒豪っぷりはまだ見せて無いから仕方ないけどね……ふふ……」 何もなかったことにして、何もなかったことにするために、急いで寝室に数本のワインを運び込み、とにかく家族や友人にお礼とかのメッセージを出しまくりながら飲みまくって全部忘れていつの間にか眠りに落ちる道を選択した。
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