夢喰いがまた来た。

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夢喰いがまた来た。

その時のことなど本当に全部忘れて、やがて月日は流れ三年後、再び私は箱の山に囲まれていた。 ただしそれらは祝いの品々などでは無く、自分の引越しの荷物であった。 「はぁ……。 まさか世界中に女がいたとはね……しょせん私はダミーのお飾りだっただけか……。 そんで寂しくなって思わずホストなんかに手を出しちゃったあたしもうかつよね……。 大金注ぎ込んで浮気したみたいなことになって慰謝料も取れないなんて……。 はぁ……夢なんてある日突然終わりが来るもんなのね……はぁぁ……」 「じゃじゃーん!!どぉーもぉー!!夢喰いでぃーっすっ!!」 元気いっぱいに声を張りながら、何か白いものが床から突然現れて飛び上がり私の顔にへばりついた。 「ふごぅっ!?なになになに!? ちょっと何これ動物!? 怖いキモい!!ちょ……っとぉ!?」 何とか必死に引き剥がして投げ捨てるとそれは壁にべちゃっとぶつかって倒れたものの、すぐに立ち上がってこちらに突進し、 「あはははぁ、前と全く同じリアクショーン!! 成長無いなぁ!! じゃ、二度目なので説明は省略して……いただきまぁーっす!!」 走りながらいきなりがばっと私の身長よりも大きく口を開いた。 「ぎぃやぁああーっ!? 何これ何よ!? やっぱりあの時のあれ現実だったのぉ!? キモい怖いやめてよぉー!!」 今回は抜けなかった腰に感謝しながらそいつとは反対方向へ走り出す、が、大量の荷物に阻まれつまづき、派手に転んでフローリングの床に倒れ込んだ。 「駄目だよぉ、だってもう夢なんて突然終わっちゃったんでしょぉー? おなか空いたよぉーひもじいよぉー。 と、いうわけで……いただきまぁー……」 「まままま待って!! あの、今回もまたあれ!例えみたいなことなの!!ほんとに!! だからいったんその口やめて、怖いからキモいから!! いったん聞いてって!!」 必死に叫ぶと、既に追いつき迫り来ていた大口が目の前で止まり、 「そうなのぉ?本当にぃ?」 言いながら元の妖精じみた姿に戻って首を傾げた。 どうやらこちらの言うことはいったん鵜呑みにして信じるらしい。 ならばどうにかして言いくるめてまたなんとか帰らせないと……。 「あの、確かに今ちょっと色々あって先のこととかあんまり考えられない状況だけど、大丈夫よ、大丈夫なのよ、そう、自分を信じて自分らしくやっていけば、大丈夫なはずなのよ」 「うぅーん、意味わかんないし全然信憑性無いんだけど……。 だいたい信じるとからしくとか強気っぽいこと言う割には俺の腹も鳴りっぱなしじゃん。 夢としての中身や根拠が全然何も無い証拠だよぉ。 そんなこと言えるような大した自分なんて何も持って無いんじゃないのぉ?」 「う、うるさいわね! あるわよ! これでも色々や……って……きてんのよ! っていうかとにかくあんたはあれでしょ!? 夢さえ喰えりゃいいんでしょ!? あるわよ本当はまだいくらでも夢ぐらい!」 「あぁ、そうなのぉ?例えば例えば?」 「た……例えば……えぇと……そう、まずは新しい彼氏作って……」 「えぇー?やっぱり君、成長が無いよぉ。 そしたらどうせまた同じことになっちゃうんじゃないのぉ?」 「ならないわよ! 今度はもっとこう、お金なんかに惑わされず堅実で愛に溢れた家庭的な感じの人で……」 「ふぅーん、でもそんな人と暮らして成立するのぉ? そういうのできるタイプじゃなさそうに見えるんだけどぉ」 「うっ、確かに……あんまりベタベタされたりずっと家にいられたりしてもめんどくさいし貧しいのもイヤ……」 「はい、無ーし。 他には他には?」 「えぇ?じゃ、じゃあえぇと……そう!社長!あたしも社長になるわ! そんでまたこのタワマンのもっと上位階へと返り咲いてみせるわ!」 「ふぅーん、で、何の社長になるのぉ?」 「何の、って……そりゃ……えぇと……アパレルとか? ファッション的な?オリジナルのブランド的な?」 「へぇー、何かそっちの才能とかアテとかあるんだねぇ」 「な……何も無いです……」 「いただきまぁー……」 「やめて待ってまだあるあります!!」 「早くしてよぉ、お腹空いて超イライラしてきたよぉ!」 「わ、わかったから、聞いて聞いて、あの……」 「イェエェェーイッ!!」 「いやあぁー!?増えたぁー!?」 「あぁもうほらぁ、俺の喰う分が減っちゃったじゃないかぁ……。 早くしないとどんどん来ちゃうよぉ?」 「夢喰いとか言ってるけど本当は本体の方が好きなんだぜ? 夢喰いだから夢喰ってるだけで、なんつーか、夢をメインの食事だとしたら、本体はスウィーツ的なことなんだぜ? 超喰いてぇぜ?」 「つっても本体が無くなったら夢も出て来なくなっちゃうからさぁ、あんまり喰いまくるわけにもいかないしぃ」 「でももうだいぶハラ減ってイライラしちまってるから、後から来たけどお先にいただきだ……」 「よ……世の中の役に立つこととか、やってみたいなっ! みんなを笑顔にするのが夢だなっ!」 「?例えばぁ?」 「早く言うぜ?」 「だ、だからその……か、介護の仕事とか……」 「うわ……」 「出た出た、介護とか言っておけばかっこつくとか勘違いしてる、私今人のためにつくす良いことしてますっ、みんなこの慈愛に満ちた素敵な私を見てっ、的な浅はかな承認欲求で介護とかやり出して現実見て二秒で辞めるタイプだぜ?」 「な、何よ失礼ね、できるもん、そういうの得意だもん……!」 「本当にぃ?」 「『女には母性本能があるから大丈夫』みたいなこと言い出すんじゃないぜ?」 「くっ……このお化けクリオネども……人の心を読んだようなことばっかり……」 「じゃあもういいかなぁ」 「こんなやついくら絞っても何も出てきやしねぇぜ?」 「いただきまぁー……」 「いただきだ……」 「ちょっと!!だから!!聞きなさいって!! まだあるんだから!!えぇと、そう、外科医!? 一匹狼の外科医になって、なんかこう一度も失敗しない感じで、強大な医者の権力社会にも屈せず難病の患者を治しまくって……」 「?ありがちだなぁ」 「っつーか昨日テレビで観たぜ?」 「くっ……化物がテレビなんか観てんじゃないわよ……! じゃ、じゃあこれは!? 事故に遭って死んだと思ったら見たことも無い場所で目が覚めて何か特殊な能力とか持って職人的な職業に就いたりして……」 「ヘイヘイヘーイ!!」 「ぎゃあっ!?また増えた!!」 「お?もう先客がいるのか! ならば話は早い、説明不要! 出て来た勢いでいただかせてもらおうか!!」 「ひぃやぁーっ!!もういいってーっ!!」 「あぁー、そういうのずりぃよぉ」 「俺が先なんだぜ?」 「ちょ、ちょ、ちょ、聞いてた!? そんでその世界にはイケメンの魔王が二人いて、実はそいつらデキてて!」 「そういうさぁ、寝起きでも思い付きそうな寝言は寝て言えよなぁ」 「こいつ夢をナメてるぜ?」 「ははは!それは困ったな!もう本体を喰うしか無いな!」 「ちょ、ま!! じゃああの、えぇと、まだいくらでもあるわよ! えぇと……えぇと……」
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