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夢喰いが帰った。
そんな調子で私はもはやわけのわからない妄想だか口から出任せだかを、夜が明けるまで延々と何時間も話し続けた。
が、
「もう勘弁して……もう出ない……もう何も無い……。
もういっそお召し上がり下さって結構です……」
とうとう限界を迎え、疲れ果てて床に倒れ込んだ私の周りには、どれほどの数か知れぬほどの妖精もどきがごちゃごちゃと大騒ぎをしていた。
「うぅーん、どうかなぁ、意外とハラ膨れてる気もしてきなぁ」
「そこそこ喰えたぜ」
「ははは!私はお先に帰るとするか!」
「……え……?マジ……?」
次々と消えていく妖精もどきを、安心したような拍子抜けしたような気持ちになりながら呆然と見詰めていたが、やがて一匹だけがその場に残り床に倒れた私の顔の前に立った。
「デタラメでも夢は夢だからねぇ、一応喰えたよぉ。
でも気を付けないと、夢が無くなったらまたすぐに来るよぉ。
じゃあねぇー!バァーイ!!」
元気良く手を振るとそいつも空間に溶けるように消えていった。
「はぁ……良かった……もう二度と来ないでいいよ……はぁぁ……」
大きく安堵のため息をつきながら体を伸ばすと、足が段ボール箱に当たった。
「あぁ……そうだった……明日、ってかもう今日か……引越しだった……。
マジ無理……疲れた……」
しかしこういうことを言っているとまたあいつらが来てしまいそうな気がして、とにかく今日はいったん頑張るしか無いか、ともう一度大きくため息をついた。
結局あいつらは何だったのだろうか。
追い詰めるだけ追い詰めて、実は無理やりにでも私に夢を見させようとする、意外といいやつらだったのだろうか。
でもあれで私があの大喜利地獄みたいなのに何も答えられなかったら本当に丸飲みにされて喰われてたのかも知れないし、あんな妖精だか妖怪だかわからない怪奇生物なんか、いいやつとかそういう観点で考えるのも無意味な気はした。
「はぁ……夢か……。
そんなことより現実にまずはこれからどうするかってのも考えなきゃいけないし……って、あぁ、まぁ、それが夢みたいなものなのかな……。
目標、目的、妄想、何でもいいけど、とにかく今とは違う自分のことを考えるのが夢ってことで、いいのかな、あいつらにとっては……。
じゃあ意外と普通に暮らしてても大丈夫なのかもね、うかつなことさえ言わなければ」
ゆっくりと立ち上がり、窓に歩み寄ってカーテンを開くと、眩しい朝日が目を突いた。
「地上四十三階から都会を見下ろすこの眺めともお別れか……」
だったら一度やってみたいことがあったと思い出し、窓を開きベランダに出た。
早朝のひんやりとした強い風が髪を乱す。
私はその風に逆らい押し戻すように、
「幸せになりたーいっ!!」
思い切り叫んだ。
高い所に来るとどうしても大声で何か言いたくなるが、上下左右にセレブリティなお隣さんも住んでいる都会のお上品なタワマンではそれができずに、ずっと落ち着かなかったのだ。
「はぁ、すっきりした……」
明け方のビル群の隙間に声が吸い込まれ消えていくのを眺め深呼吸していると、
「相変わらず具体性が無いなぁ」
背後で聞こえた気がして振り返ったが、部屋の中には山積みの段ボール箱だけが私を待ち構えていた。
終
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