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 仲間を呼ぶ、オオカミたちの遠吠えが聞こえる。 「もうこんな時間か」  国民たちに祝福された弟たちの結婚式が無事に終わり、夕方から続いていた宴会もそろそろお開きとなる時分。夜風にあたるためにバルコニーへと出ると、風に乗って微かに聞こえてきたオオカミの遠吠え。  彼らの声が気になるのは、自身にもオオカミを始まりとした獣亜人――『オオカミ』の血が流れているせいだろうか。      血が流れている、と言っても弟のように『オオカミ』の姿になることもない。自分自身はただの人間だ。たまに『オオカミ』たちのように嗅覚が良くなったりすることもあるが、血が起こす気まぐれといっていい。 (オレも『オオカミ』だったら、あの二人みたいに唯一無二ってものを見つけられたのかね)  己の目と同じ、青い色の宝石が嵌った腕輪。それはじゃらじゃらと両腕に嵌ってはいるが、一つたりとも”誰か”に贈ったことはない。国内外から送り込まれた姫たちがいる後宮はあっても、義務以上の感情を抱くことができない己を彼は自嘲した。  守るべきものも、大事なものもたくさんあるけれど。己の心に寄り添ってくれるような、そんな存在を見つけることは、いつの間にか諦めてしまっていた。  大国の王である以上、そう振る舞ってきたし周囲もコルをアスラル王として接する。優秀な部下も多く、国民の気性も穏やか。面積が広い国である割には、よくまとまっていて平和と言っていいだろう。  けれど、こうやって一人になった時。己に何が残るのだろうかと考えることがある。  ――己が『オオカミ』になれたとしても。己の遠吠えに応えてくれるつがいは……きっと、いない。
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