時には艶づく華のように

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※※※  寂れた庭に不似合いな赤い曼殊沙華。  それを部屋から眺めていた久遠が、気配に振り返った。 「……来たか」 「僕は、いつから死んでいた?」  今の那由多は視える者にしか見えない。身体は曼殊沙華の群生の中だろう。 「庭に飛び込んで来た時から霊体は浮いていた」 「そんな前から!?」 「浮いてるのに身体から離れない。死んだ自覚はないし身体も普通に操って、あげくに」  含み笑いをする久遠に、血など通わないはずの那由多の顔が熱くなる。 「まあいい。もう心残りはなくなったか」 「うん……。あの曼殊沙華は久遠の仕業なの?」  すると彼は壁に掛かった一枚の水墨画を目で示した。それはこの家の庭の風景で、曼殊沙華だけが紅く色づいている。 「元々、庭に花はなかった。殺風景だから俺がこの世に具現化させたんだ」 「え?」 「俺の画は色を施すとそれが現実に現れる。ばあさんから受け継いだ力だ」  風景画に色付く花を描けばそこに現れ、雨に色を施せば雨が降る。  それはまさしくこの世の理に反し欺いてしまう、美しくも罪作りな(カルマ)。 「そのせいか霊が視えて、よく頼み事をされる。一目子供に会いたいだの、あの桜がもう一度見たいだの。都心は特にそういうヤツらが多くて困る」  那由多が呆然と立ち尽くしていると、久遠は文机の上から奇妙な銀色の板を取り上げた。 「あれからお前の事を調べた。那由多の名前でそれらしいヒットは一件だけ。かつてこの辺りを治めていた領主が浅井那由多というらしい。戦国時代の話だが」 「センゴク? 浅井那由多は確かに僕だけど……。久遠、時々わけがわからない事を言う。それに今日は変な着物」 「画廊の奴と会う時はいつもスーツだ。さっき帰って来たばかりでまだ着替えてない」
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