時には艶づく華のように

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※※※  カタン、と何かの物音がして那由多は目を覚ました。 「…………」  見知らぬ天井、襖で仕切られた畳敷きの部屋。自分が布団に寝ている事はわかったが、それまでの経緯は思い出せない。 (僕はいったい……? ここは……)  ゆっくりと視線を巡らせると、傍の文机に蝋燭を置く男の横顔があった。 「……あ」  那由多の声に、男が顔を上げて眉をひそめる。 「なんだお前」 「え? なんだ、って言われても……」  掛け布団を除けて上半身起こした那由多に、男の切れ長な目が僅かに見開いた。 「起き上れるのか」 「あ……そうか僕、発作で。もう収まったみたいだ」  ようやく頭が働くようになり、様々な事が思い出される。彼に助けを求めた事も、自分の置かれている立場も。  那由多は布団の上で居住まいを正し、ペコリと頭を下げた。 「迷惑をかけて申し訳ない。道に迷った挙句に持病の発作が出てしまって。休ませてもらえて助かりました……」  礼の言葉が薄暗い部屋に頼りなく霧散していく。  何も応えず静かに自分を見つめてくる男があまりにセンシュアルで、那由多は慌てて目を伏せた。 (何を考えてるんだ僕は。どうかしてる)  言い聞かせても精悍に整った面差し、首筋や鎖骨、彼の存在を象る稜線の全てが那由多の芯を落ち着かなく波立たせる。   「名前は?」 「えっ!? ……那由多」  咄嗟に名乗ってしまったが、男はその名に聞き覚えはないようだった。
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