第一号(2)

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第一号(2)

 気づけば私は公園のベンチに腰掛けていた。鳩がテクテク右往左往している。時折カラスがやってきて鳩の小さな塊を蹴散らして意気揚々と飛び去っていく。しばらくすると子供の無邪気な声が聞こえてきた。保育園のお散歩の時間だ。少し背の高い子が木の枝を振り回して先生に注意されている。私が道を間違えた時、ああやって一言添えてくれる奴がいたらこうして平日の昼間から公園に座っていることもなかっただろうか。自問自答しながら朝近くのコンビニで買ったサンドイッチを二、三口頬張った。  いつも損ばかりしてきた。持ち前の明るさで人望こそあったものの人の良さが幸いし、なんでも二つ返事でokを出してしまっていた。そんなただのいい奴は社会ではカモでしかなかったらしい、あの日の友人の泣きそうな顔を思い出した。頭の中で何度彼を殺害しただろう。無論、妄想を実行に移す勇気などあるはずもなく、ただ恨むだけの日々だ。  あの日友人に5500万円の借金を背負わされた。連帯保証人にされたってわけだ。貸し口はタチの悪い闇金会社。家族には愛想を尽かされ、今は独り身だ。日雇いの派遣でその日を食いつなぎ、利子に追われる日々。  思わず笑みがこぼれ落ちた。自分の情けなさに失笑した。醜い歯が露わになる。いつから治療をしていない? あいにく、歯に金をかける余裕など鞄のどこを探しても見当たらないのだ。  残ったサンドウィッチを口に詰め込み、立ち上がった。腰に鈍痛が走る。もう歳らしい。公園を後にしようと歩き出した時、後ろから声をかけられた。 「すいません、少しお時間いただけないでしょうか? 」
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