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0話 歓迎されない者
無個性な事務室。4人の人が黙々と自分たちの仕事に夢中している。
世界中、どこにでもあるような普通で地味な職場にみえるが
「僕、仕事辞めます。」
自分の席を蹴立て、神聖な職場の沈黙を破ったのは30代の男。元々からああいう色だったかなと思われるほどの真っ赤の目玉が彼の辞職の理由を説明している。
一瞬、している作業を止めて男を見上げる職場の仲間たち。この哀れな辞職希望者の絶叫を聞いて、最初に口を開けたのは多分、この空間で一番年下にみえる真っ黒なスーツを着ている若い女性だった。
「えー、じゃあ先輩のキャビネットにある
シャンプとボディソープ私がもらいます。」
それを聞いて、「しまった」という表情を浮かべる
傷跡だらけの顔をした中年の男性。
「ア、ねらったのに、しょうがないな
僕は君のテーブルにあるレイちゃんのフィギュアを
もらおう。アントニオさんは、何にします?」
アントニオと呼ばれた黒人の男性は露骨に
この話題に入りたくないという表情で短く答えた。
「…いりません」
「はい、これで黒目(くろめ)君の引き継ぎの話は終わりにして、
皆んな経緯書作成に戻りましょう。」
「『戻りましょう』じゃなくて、シャンプもフィギュアも
何なら腎臓でも部長にささげるから家に帰させてください。」
「先輩の腎臓、昨年、過労で入院した時
一個は取り除きましたから、もう一個とったら死にますよ。
そして、シャンプは私がお先に…」
「黙れ知石(ちいし)、部長お願いします。
明日、息子の誕生日なんですよ。今回も不参したら
本当に離婚されます。2時間いや、30分でも良いから
外出させてください。戻ったら2倍で働きます。」
「甘いね、そんなアピールは俺には通じないぞ黒目君。
僕は先週の娘の結婚式に不参したぞ。離婚?カワイイね、
コッチは、今帰ったら100%殺されるんだハハハ」
「なら帰ってクタばれ、クソ爺じ〜」
この世であってならないようなカオスな対話。彼らは一体誰なのか。
「まあ、気持ちはわかるけど、ルールは知っているだろう。保安法上
経緯書が通過するまで、ここから全員出られない。
明後日には帰れるから我慢してくれ」
「はー、やっぱりそうですよね。失礼しました」
やっと落ち着けた黒目、彼も最初から自分の要求が、
無理だということを知っていてた。
ほぼ監禁に違いない過酷な法則とそれに従う人たち。説明しておくが、彼らの国は、このように個人の人生が組織に埋没されるのが当然化され劣悪な市民意識を持っているわけではない。
むしろ、長い期間の認識改革と政府の努力により、世界で一番先進された企業文化を持っている国であった。彼らの職場はどこの国にも属していない。それに
「安心している最中に申し訳ございませんが、連絡が来ました。」
話に割り込む知石、彼女の言葉でやっと落ち着いた守川の顔が腐っていく。
「やっぱり、辞めます。」
「辞めても。今から最少2週間は、ここから出れないよ。知石君、内容は?」
「K国で起こった連続殺人です。現在確認された被害者は2人、死因は墜落死です。」
「はやいな、2人くらいでこっちに依頼が来るのは」
「それは先輩、二人の被害者が、自宅の天井に頭から打ち込まれたからだと思います。」
彼らの部署で扱うのは人間ではない。
「『反重力』もしくは『空間転換』それに『加速』か」
「アントニオさん。現地捜査機関からのデータ協調要求お願いします。」
「はい」
「知石は、現地のアザーリストを、魔力量が高い順で、犯罪記録と
技術レベルは無視してもいいできるだけ早く」
「はい。10分以内に準備します。」
アザー(other)ある時期、魔法使い、超能力者などの名で呼ばれた者、
彼らはこのアザーが起こす事件を専門にする人間捜査官チームである。
「ついに離婚するのか黒目君」
「奥さんの代わりに殺しますよ、部長」
ダークファンタジーよりダークな勤務環境で彼らは、今日も事務室に監禁されている。
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