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午前7時。
短めの髪をワックスで整え、グレーのスーツに身を包んだ昌也がローテーブルで朝食を食べる。メニューはトースト、サラダ、スクランブルエッグと定番のワンプレートメニューだ。テーブルを伝い歩きをしている昌広に、エプロン姿の佐和子はカボチャと鶏ひき肉を煮て作った離乳食をあげていた。
「あぁ、もう、気をつけてよ。昌広は何でも触っちゃうから。」
皿に手を伸ばそうとする昌広を、昌也が牽制する。佐和子は昌広の隙を見つけては、離乳食を口に運んでいた。
途端、昌広がくしゃみをしそうになる。
「わぁ!」
佐和子が慌てて口元を押さえ、昌広は急いで避けた。難は逃れた。
若くして管理職になった昌也は、仕事で昌広と生活がすれ違いがちだから、と朝食を一緒に取りたいと望む。だから佐和子の朝食は後回しになりがちだ。でも昌也がそう思ってくれることが嬉しかった。食べなくても家族でテーブルを囲むことにきっと意義がある。同時に食べることに拘る必要はない。
佐和子は幸せだった。慌ただしく忙しい日々だが、幸せだった。
出勤する前のほんの少しの時間、昌也は昌広と触れ合う。昌広は髪こそ薄いが、和佐子に似て、某着せ替え人形のような顔立ちをしている。男の子は母親に似るというのは、まんざら嘘でもないらしい。
足元でハイハイをする昌広を昌也が抱き上げた。
「昌広は可愛いなぁ、俺、食べちゃいたいなぁ。」
柔らかいほっぺにキスをする。昌広が人見知りで嫌そうな顔をした。
駄目よ。
和佐子は目を細め、思った。
昌広に関しては、別だ。
痛い思いをして産んで、苦労して育ててるのは私なんだから、もし食べるのなら私が先よ。
でも。
大きくなった昌広を見たいから、私はやっぱり食べれないわ。成長過程を昌也と味わいたい。……せめて、味見は私から。
まだまだ楽しみはこれから。
「行ってらっしゃい、気をつけてね。」
佐和子は昌広を預かると顔を綻ばせ、昌也を見送った。
新聞の天気予報では今日は秋晴れだった。遅めの朝食を終えたら、愛しい昌広を連れて散歩にでも行こうかと、佐和子は思った。
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