第一章 出会い

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第一章 出会い

 どこからこんなにあふれてきたのかと思うほどの人波をかき分けながら、林草太(はやし そうた)は顔をあげた。スクランブル交差点の先、はるか頭上の大きな看板には今を時めくモデルの「MASAKI」が胸元を大きく開けアンニュイな表情で誘うように視線を流している。その深く濃い黒曜が射るように見るものを刺す。    同じ年だというのにこの違いはなんだ、とじゃっかんの悔しさを感じつつ窮屈に閉じたワイシャツの襟元に手をかけた。地味で子供っぽくみられがちな草太が首元を開けたところで、あんな色っぽさは滲み出ても来ないのだけど。  時計を見ると待ち合わせ時間にはギリギリだ。足早にたどり着くと上司の猪尾も同じように駆け足でやってくるところだった。  お互いに身だしなみをチェックして高くそびえたつビルを見上げた。自分たちの働く会社もそんなに悪くはないのに、比べてしまえば見劣りがする。それも仕方ない。  ここは世界で活躍するモデルが在籍する超大手事務所で、とても同じ人種とは思えない人たちが忙しそうに出入りしている。  お門違いともいえる草太が何故ここにいるかといえば、さっき看板で会ったMASAKI相手に交渉をする。それが今日一番の大きな仕事だからだ。  緊張する草太に反して同席する上司の猪尾はのんびりとしている。通された応接室を眺め「このソファめっちゃ座り心地がいいね」なんて話しかけてくる余裕さえある。  どうやらこの事務所の社長と知り合いらしく、そのツテで今回の依頼を思いついたらしい。普段からのほほんとしているけど、どうしたらそんな人たちと繋がれるのがとっても疑問だ。
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