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女が弾くことが多いからか、少し柔らかめの感触だ。ペダルも軽い。
少しの力で音が店内の隅々にまで行き渡るよう調律してある。あんまりジャカジャカ弾くとうるさくなっちまうな。
静かな曲がいいかな。
「アリサ、Amaging Grace。いける?」
「え、ちょっと勝手に」
鍵盤に羽根を広げるように指を置く。
アリサが観念したように息を吸い込んだのを見計らって、深く、静かに和音を鳴らした。
白い喉から声が伸びていく。
アリサの武器は、Superflyとか中島美嘉みてえな力強く澄んだ声だ。
でもこの曲は賛美歌だ。パワフルさを抑えつつ、持ち味を活かしソウル風に歌いあげる。
最後の音が余韻を残す中、後藤はパチパチと拍手をした。
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