稀なる混ざりもの。

3/4
276人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
 きらきらの翼。細い手足。それを飾る、長くてまっすぐな濃紺の髪。宝石よりもっとずっと豪華な、深紅の眼。  濃紺の髪を結わえて、銀のリボンで飾ってあげるのは、私の特権だ。 「さあ、エレ、できたわよ」 「ありがと、エレナ」  エレとエレナ。私たち二人の名前は本当によく似ている。  目の前で、侍女たちに褒められて照れたように笑うエレは、兄でありアバールの次期国王となられるアーリャ殿下のつがいだ。侍女たちから世話をされるのはまだ慣れないようで、くすぐったがって髪の手入れから逃げてしまう。  その代わり、私だと逃げ出さないので、最近は髪結いは私の特権になっていた。 「でも名前が似てると、今後は少し大変ね」 「そう?」  きょとんとした顔で首を傾げるエレに、私は大きく頷いた。 「兄さまはアーリャで、私はエレナでしょ? 間違えない」 「うん」 「でも私はエレナで、貴方はエレ。どう?」 「……最初だけ聴いたら、間違えるかも」  深刻そうな顔をしたエレに、私はくすくすと笑いながら続ける。 「でもエレと名前が似ているの、私は嫌じゃないのよ」 「どうして?」  私は額をうっすらと膨らませる角、そして三角の耳と尾に順番に触れて見せた。角は父様から、三角耳と尾は母様から頂いたもの。二人の特徴を受け継いだ私は、稀なる混ざりものとして、どこにもいない唯一無二の種族だ。  獣人は、稀なる混ざりものとして、新しい種族の誕生をことのほか喜ぶ。私が生まれたときも、大変な騒ぎだったと聞いている。正当な王位継承者として申し分ない兄さまが生まれたとき以上の騒ぎで、私の名前がついた祝日まであるくらいだ。  でも。  私は、完璧に兄さまや父様と同じわけでもないし、完全に母様と同じわけでもない。  そんな私にとって、血のつながりのないエレと、たとえ名前であっても似たところがあるのは、すごく嬉しいことだった。 「私、母様と父様、二人の素質を引き継いでいるの。だからエレと名前が似ているのは、エレと家族の証のようで嬉しいのよ」 「そうなの? なら、よかった」  エレは笑うと、物凄くかわいい。アーリャ兄さまはつがいだからというのを抜きにしても、きっとエレの笑顔にやっつけられてしまったのだ。 「さて、準備はいいわね?」  私が侍女たちを見回すと、彼女たちも気合の入った表情で頷く。  今日はエレが初めて、公の茶会に出る日だ。  私が隣にいる以上、変な真似はさせやしないが、侍女たちも万全の準備で場に当たるように厳命してある。まだ幼いエレを手玉に取って、うまく出し抜こうとする愚か者が居ないとも限らない。 「じゃあ行きましょう、エレ」 「うん。エレナ」  私たちは仲の良い姉と弟のように、連れ立って庭へ向かう。  そうね、今日は、母様もおいでになる茶会ですもの。  赤の班のあの人は、きっと、護衛として茶会にいらっしゃるでしょう。  期待している自分がなんとも新鮮で、私は唇をほころばせるのだった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!