稀なる混ざりもの。

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 エレナはとうに眠りについた頃。  アバールを治めるケリャ王は、配下よりの知らせを、常と同じく王妃であるジャノルと共に聞いていた。 「なるほど、エレナはそう思っていたのか」 「はい。名前の呼び方次第で、何か問題が起きる可能性はあるとご指摘なさっておいででした」  かすかな声で答えるのは、優秀な諜報員である蝙蝠族の青年だ。その言葉に緩やかに頷いて、ジャノルがケリャ王を見上げる。 「では陛下。エレが公務に出る場合は、古鳥族の伝統にのっとり、対外的に使う名を決めるのはいかがでしょう?」 「対外的な名前?」  首を傾げたケリャ王に、ジャノルが返す。 「古鳥族は、三つの名前を持つのが伝統。一つは対外的に使う名前、古鳥族の長、エッケハー様の名はこれですね」  指折り数えながら、ジャノルの説明が続く。 「もう一つは家族や親しいものが呼び合う名前で、エレがこれですね。それと……最後の一つは、死ぬときまで誰にも明かさぬ秘密の名前で、死後はその名で呼ばれるそうです」 「対外的な名前というものは、エレは決まっていないのか」  くすりとジャノルが笑い、 「エッケハー様によれば、決まる前にアーリャの元に飛び込んできてしまったそうです」    と、そう答えた。  蝙蝠族の青年が、それはそれは、という様子で頷く。何しろつがいに会いたい一心で空を駆け、王宮の警備を強行突破し、執務室の窓を蹴り破って突っ込んできたのはエレが初めてだ。  たぶん、最初で最後だろう。 「ではエッケハー様にお尋ねして、どのような名を決めていたか聞いておく必要があるな」 「承知いたしました。手配いたします」  するりと消えた蝙蝠族の青年を見送り、王と王妃は寝台に横になる。  子供たちを生み育ててから、柔らかく肉がついたジャノルの体を抱き寄せて、王は幸せそうにため息を漏らした。 「エレナも成長した」 「そうだな。……あの子にも、いずれつがいが現れると思うか?」  二人きりになった時の言葉遣いに戻し、ジャノルはケリャ王の顔を見上げる。 「さて。つがいが現れるかどうかはわからないが……」 「が?」 「幸せな道を歩んでほしい、そう思う」  穏やかな夫婦の時間は、ゆっくりと流れていくのだった。 
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