Lyra

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その一言に思わず明はぐっと言葉を詰まらせてしまった。そして、矢島のかけた鎌にかかったことに気付き、慌てて取り繕おうとするが、時すでに遅い。 「いやはや、ここまで簡単に白状してくれる奴もいないな。よしよし、何が気になるんだ?」  明の反応を見て楽しんではいるが、その目は真剣だった。それに、もう隠し立てしても仕方がない。明は観念して今の自分の状態を正直に矢島に話した。聞き終えると、矢島の顔からは笑みは消え、代わりに何かを伝えようとして、どうすべきか迷っているかのような表情が残った。 「えーと、だな。そこまで分かってるなら、打開するも何も、お前が取るべき行動は一つだけなんだよな」 「それが分からないんです、本当に。教えてください」 「いや、そんな構える事じゃないよ。簡単な事だ。笹峰と二人で時間取ってゆっくり話し合ってみろ。そうすりゃ、理由も分かるんじゃないのか?」  話し合う。そう言われてふと明の頭に夜中に見た例の店が思い浮かび、思わず頭を振った。 「おやおや、何を想像してるんですかねぇ」 「ほっといてください!」  真っ赤になりながら矢島の追撃をかわし、明は気分を落ち着かせようと深呼吸をする。 「まあ、深く考えるなよ。大体何とかなるさ」  だから肩の力を抜け、と矢島は明を励ました。 「難しく考えるな。話しているうちに気が付くかもしれないし、あるいはもうちょっと時間が経てば分かるだろうさ。それに、今は目の前にイベントもあるだろ」 「天体観測、ですか」 「ああ。大体一か月後だが、今のうちに気を紛らわせるためにも、改めてオリオン座について調べるなりして、手を動かしてみるのもいいんじゃないか」 そう言い、矢島は背後に掛けられているカレンダーに目を向けた。つられて明もそちらに目をやった。十一月も、あと一週間を残すばかりだ。オリオン座観測まで三週間弱。そして、年が明けて年度が替われば代替わり。そんなことをつらつら考えていると、「お疲れ様です」と言いながら遥が入ってきた。
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