Lyra

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「まあ小山は、あの子もそろそろやめるのか、とか不気味なことを言って、俺や岡谷の肝を冷やしたけどな」 その時のことを思い出したのか、渋面を作って矢島が言った。 「え、ちょ、小山先輩そんなことを?」 「いやあいつの冗談だ、本気にするなって。大体雰囲気で俺たちもわかるんだよ、この子は残ってくれるな、とか、多分この子は途中でやめるだろうな、っていうのは。部室で話している姿を見ていたら、本当に何となくだが分かるんだ。大体やめていく子っていうのは、どこか部室に馴染まない。その点、菊川はそんなことなかったから、やめるなんて思っていないよ」 「じょ、冗談ですか。だとしても、小山先輩きっついなあ」 「あいつの毒舌はいつものことだろ。いい加減慣れろよ」 「失礼ですけど、その言葉には同意します。一応慣れてきてるつもりなんですけどね」 「本当に失礼だよ、菊川君」 「いや、だってさあ」  三人で談笑していたが、その中で明はふと不思議に思った。遥と面と向かっても、先ほどまで感じていた緊張感や違和感なくごく普通に話すことが出来ていた。もしかしたら、矢島がいてくれ たからかもしれない。だとしたら、二人で話すとして自分は上手く喋れるのか? ――いや、それを迷っても始まらない。当たって砕けろ、だ。 「さて、と。そろそろ俺は昼飯でも買ってくるよ。生協も、この 時間なら少しは人ごみもマシになるだろ」 ふと時計を見ると、すでに一時近くになっていた。とはいえ、二限目が終わってから二十分以上時間も経っており、多少は人もはけているはずだ。矢島が出て行って、遥と部室に残された明は、どうしたものかと考えあぐねていた。 「あ、そうだ。笹峰、今秋の土日って空いてないか?」  昨日ネットで調べていた店のことにようやく思い至り、明は遥に尋ねた。 「ん? えぇと、土曜はお母さんと出かける予定があるけど、日曜なら空いてるよ。どうしたの?」
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