Lyra

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「なっ!」 がばっと身を起こすと、いつものベッドの上だった。朝日が差し込んでいる。 ――なんで、神話の夢を。しかも、最後の場面、まさかあれは。 神話では、あのケルベロスをオルフェウスは竪琴を奏でることで眠らせ、その後に続く艱難辛苦を突破して冥王ハデスと対峙した。つまり、ケルベロスとご対面したということは……。 ――やめよう。 考えるだけで頭が痛くなってきたし、そもそも夢は所詮夢だ。現実と何か関わりがあるわけじゃない。そう言い聞かせ、そういえば今日は遥との約束の日だったことを思い出す。まだ約束した時間まで余裕はあり、顔を洗ってから着替えを済ませ、いつでも出発できるよう明は身支度を整えた。とりあえずは、五分前に駅前に到着できるように下宿を出る。 ――しかし、いざ顔を合わすとなると、どうもなあ。 意識しすぎているというのは分かっている。それでも緊張を覚えずにはいられなかった。 だからといってそれを理由に逃げ続けるわけにもいかない。とにかく遥と話すこと。このまま身に覚えもないのに後ろめたさを感じたまま、疎遠になるなどというのは絶対に避けたかった。下宿を出てから徒歩五分ほどの距離にある駅から三船山の最寄駅まで電車に揺られること十分。その間、妙に明は落ち着かなかった。外の景色に目をやってはスマホをいじり、また外に目をやり、それを繰り返しているうちに最寄駅に到着した。改札口を出て、目の前にある噴水近くのベンチに腰を下ろして腕時計をちらりと見ると、まだ約束の時刻まで二十分近くある。 「あ、いた!」 流石にまだ来ないだろうと高をくくってちかくのベンチに腰を下ろした途端、そんな声が聞こえ、驚いて顔を上げると駅の方から遥が小走りでこちらに向かってきていた。 「早くない?」  目を丸くして尋ねると、遥は「焦っちゃって」とばつが悪そうに笑って答えた。 「それに、それを言うなら菊川君だって早いじゃない」 「あー、下宿にいても暇だったから、つい」
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