Lyra

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 苦笑しながら明は、遥が夢中になっていた望遠鏡に近づいた。有名メーカーのもので、屈折式の高倍率モデルという扱いやすい望遠鏡だ。口径も屈折式にしては十三センチと大きい。  望遠鏡と一口に言っても、二つのタイプがある。そのうちの一つ、屈折式というのは初心者からベテランまで幅広く扱える、ポピュラーなものだ。対して反射式はベテラン向けの細かいメンテナンスや調整を要するものである。車で例えるなら、オートマかミッションかの違いといったところか。また、レンズの口径にしても反射式は基本的に十センチ級のものがメインで、最低でも八センチあるのに対し、屈折式は八センチもあれば上等で、十センチ以上のものは滅多にない。 「屈折式で十三センチかぁ。確かにこれは欲しくなるな」 値札に書いてある商品紹介を一通り読み、明は思わずため息をついた。しかし。 「でも、十万を軽く超えてるね」  遥が値札を指さしながら言った。値段は十五万円近く。到底、学生が気安く変える代物ではない。 「まあ、屈折式でここまで口径があれば当然だろうなあ」  口径の大きさはすなわち望遠鏡の性能とも言うことが出来、口径が大きければ大きいほど、その精度は上がるが、それに比例して値段も上がる。 「これは、確かに欲しいけどプロでもない俺たちが手を出していい物じゃないな」  普通ならば、屈折式望遠鏡であれば八センチ級のものを買い、それを末永く愛用するのが一般的だ。プロであったりそういった趣味道楽に惜しみなく金を使い込める富豪でもない限り、壊れたときが怖いような十センチ級以上のものをほいほい購入したりはしない。 「まだ沢山あるし、ゆっくり見て回ろうよ」  遥の言葉に頷き、店内を一通り見て回った。結局、店の品揃えはネットの評判通り、満足できるものだった。レンズ、台座といったパーツも細かい種類が豊富に揃えられており、これだけあれば充実した天体観測を行うことが出来る。  ただ、プロ向けのものも多く、初心者で、趣味レベルにとどめたい人にとっては入りにくいお店かもしれない。 「でも、ここで買えば天文部の活動も質を上げられそうだよね」 あれから二時間ほど見て回り、一旦店を出てお昼にしようということで商店街に戻り、入った喫茶店で食後のコーヒーを飲みながら遥が言った。 「確かに。って、言ってもあの望遠鏡、よく考えて選ばれてて、素人でも扱いやすいのに、精度はそこそこいいんだ。しかも、値段も五千円ちょっとくらいだったらしい。だから、無理に何か追加部品を買う必要はないんだよな」
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