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遠回しに、当たり障りのないように明は遥に尋ねた。
「うーん、その人に対して悪いことをしてしまったなあって思う時に、そういうことはあるけど思い浮かぶとしたらそのくらいかな。でも、そういうことじゃないんだよね?」
「ああ。その人に対して悪いことは何もしてないし、お互いに接する態度も何も変わってない。これからも、仲のいい関係で上手くやっていきたいと思ってる。なのに、なぜか話しかけにくくなったり、会えるのを期待しているくせに、避けてしまったりするんだ。そういうことってないかなと思って」
「私は、そんなことはないかな。でも、菊川君の言いたいことは何となく分かるよ。それって、多分」
そこまで言いかけて、遥は少し逡巡してから口を開いた。
「いわゆる、好き避け、じゃないかな」
しかし、それはまるで言葉に出したくないものを無理やり吐き出している、という様子だった。
どこか作り笑いめいた、笑いきれてない顔になりながら遥はコーヒーに口をつけた。その様子を、明は訝しく見ていた。
――どうしたっていうんだ、笹峰。何で急に態度が変わったんだ?
「ん、どうかした?」
明の視線に気づいたのか遥に尋ねられて、何でもない、と視線を外に向けながら返す。そして、今言われたことを反芻する。
そして、ストンとそれは、胸に落ちた。
――やっぱり俺は笹峰のことが。
「好き避け、か」
「うん?」
「あ、いや。何でもないよ。ただ、そうかって思うところがあってさ。話聞いてくれて、ありがとう」
「どういたしまして。参考になったら嬉しいけど、その様子だと寝耳に水だった?」
「まあ、びっくりはしたな。けど、うん。俺なりに分かったことはある、と思う」
ここまではっきりすれば、もう目を逸らすことはできなかった。きっと、受け入れられなかったのは初めての感覚に戸惑いと、恐れのようなものを抱いたからだろう。
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