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しかし、同時に気になることも増えた。先ほどの笹峰の表情、一体どうしたというのか。あんな苦しそうな表情をする遥を始めて見た。まるで、受け入れたくないことを無理やり受け入れようとするような、そして諦めてどこか投げやりになった表情。
「どうかした?」
遥が心配そうに明の顔を覗き込んでいた。その表情を見て、明は思い切って尋ねた。
「笹峰も、何か心配事でもあるんじゃないのか?」
「えっ、ないよ」
心配性だなー、と苦笑しているが、どうもその顔に違和感を覚える。
「さっき表情が強張っていたけど、本当に大丈夫なの?」
「え、そんな表情してた、私?」
「うん、何だか笑えないのを無理して笑っているようだった」
「そっか。でも、本当に大丈夫だから。ごめん、余計な心配かけたみたいで」
「いや、ならいいけど」
あの表情が大丈夫だとは思えない。しかし、話すつもりがないのか、遥本人がそう言うのならばこれ以上詮索はできない。
すっかり冷めてしまったコーヒーを飲み、そろそろ店を出ようと言う話になったので、席を立ち、喫茶店を後にして一度商店街に戻る。商店街を戻る道すがら、遥は何かを考え込んでいるようだった。話しかけても、どこか無理をしているように思えた。
これ以上ほかの店を見て回るという雰囲気でもなく、二人の足は自然と駅の方に向かい、そのまま別れる流れになった。ひとまず、遥と話すことが出来て、そして、ようやく自分の遥に対する想いをはっきりさせたものの、それ以上に、遥の喫茶店でのこわばった表情や、駅に戻る道中のずっと思い詰めていたような表情が頭から離れなかった。
マンションに帰ってからも、ずっとそのことが頭から離れず、明は考えに耽っている。
――俺の、笹峰に対する気持ちははっきりした。だけど、俺がいることで、もしかして笹峰に対して負担をかけているのか?
もしそうだとしたら、気持ちを打ち明けるどころじゃない。
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