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「あ、いえ、不満があるとかじゃありませんから」
本心だった。確かに、遥が自分のせいで傷ついたりしているのならば何かしたい。しかし、それで一層彼女を追い詰めてしまうのであれば、それは望んでいる事態ではないのだ。
「まあ、あまり私から言えることはないけど、これだけは言っとこうか。菊川君は、自分に責任があるって考えてるみたいだけど、君が考えてるほど深刻じゃないし、何よりこの件について誰に責任があるわけでもないから、そこまで思い詰めなくていいよ」
「いや、俺は別に思い詰めてなんか」
「いるよ。さっきから俺が、俺がってばかり言ってる。そうやって前のめりになるから、余計一層遥ちゃんといづらくなるんじゃない」
明の返事を遮ってそう断定するように言う小山。それに対して明は違う、と言いたかった。
しかし、言えなかった。口が開かない。喉元まで否定の言葉は込みあがっている。そうだというのに、それが口から出ない。
「参ったなあ」
ようやく明から出た言葉はその一言だった。何でもない、と笑ってみせたかったが、しかし上手く笑顔を作れない。
「君の吹っ切れたような顔見て、ようやく気づいたかって、そこに安心はしたんだけどね」
「どうも」
「けど、視野が狭いというか、何というのか。やっぱり不器用?」
「そう不器用、不器用って連呼しなくてもいいじゃないですか」
少し冗談気味に返すことが出来た。
「事実じゃない。ま、そう難しく考えたり、責任が誰にあるとかって考える必要ないから。時間の無駄よ」
いつもは、その毒舌に苦手意識を覚えてはいたが、こういう時の小山の口調に明は安心感を覚えた。すっきり、はっきりと、無駄なく肝心な部分を明確に伝えてくれる。
「で、君はいつ決着をつけるつもりなのかな?」
聞くことも直球すぎて、だからたまに返答に窮することもあるのだが。とまれ、遥を追い込む心配がなくなるのであれば、明とて自分がどうすべきか、いや、どうしたいかなどはとうに答えの出ていることであった。だから、小山の唐突な質問にも、今ならば明確に答えることが出来た。
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