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何度も自分に言い聞かせて、落ち着こうとするがどうにも浮ついた心を押さえることが出来ないでいた。とにかく着替えて掃除をするも気もそぞろで、そうこうするうちに時間がすぎてゆき、とうとう集合時刻を迎えた。電車に乗って、集合場所に向かう。駅を降りて、三船山に着く頃にはもう真っ暗だった。商店街を通り過ぎて、三船山に近づくほど街灯も少なくなってくる。江戸時代の昔には、ここで斬り合いをした武士もいたのだとか。その斬り合いをした一人が明の先祖だという話を、祖父だったか祖母だったかから聞かされたことがある。
ともかく、集合場所はいつもと変わらない。登山口の手前だ。向かうとそこには望遠鏡を担いだ岡谷と小山が既に到着していた。
小山は方位磁石で方角を確かめつつ岡谷と相談し、望遠鏡のセッティング場所などを決めていた。
「よう」
「流石に菊川君は早いね」
「まあ、電車に乗れば、すぐ着く距離ですから」
ふと空を見上げると、あつらえたかのように雲一つ出ていなかった。
夏の夜空の場合、水蒸気が薄いベールのようになって空を覆うため、星が見えにくいことがある。したがって、多少薄い雲が出ている方が観測しやすい場合もあるが、それに対して、冬の空は大気中の水蒸気が少なくなるため、はっきりとした夜空を見ることが出来る。ビニルハウスから外の風景を見るか、野外で直に外の風景を見るかの違いとたとえることができよう。
「あっ、オリオン座見つけました」
そして、そんな空だからこそ、一際明るい星々を持つオリオン座はすぐに見つけやすい。
「まだ低い位置にあるな。まあ、慌てるな。そのうち、もうちょっと高い位置に来るさ」
明の指さす方を見て、岡谷はのんびりと言い、ちらと腕時計を見た。まだ時間もあるということで、小山は矢島や遥から連絡が来てないか確認を、岡谷と明は星座についてなどの雑談にふけっていた。
「お疲れ様です」
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