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「東だから、えぇと、こっちだな」
十二月の午後八時ならば、オリオン座はまだ東の空にある。午後七時に低い位置に見えて、八時には少し高くなり、南中するのは深夜にもなる。
「よし、セット完了だ。もう三十分くらいで観測できるはず」
手際よく望遠鏡を台座に載せて固定し、ピントまで合わせて一通りの作業を終えた岡谷はふと空を見上げていた。
「矢島君は後から?」
「あ、はい。ちょっと息整えてから来るそうです」
「そ、わかった。ありがと」
明に尋ねた小山はスマホを取り出して何かメッセージを打ち始めた。普段本を読んでいるイメージしかなかったので、そういう姿を見るのは少し新鮮だった。
「ちょっと様子見てくるから、岡谷君、少しの間任せてもいい?」
「ん、ああ、了解だ。矢島の奴、まだ動けないのか?」
「みたい。まあ、大したことはないだろうけど、念のために」
二人は気にしなくていいから、と言い残して小山はさっき来た道を引き返した。
「まあ、そう心配するな。小山の言うとおり、大したことはないさ。ただ、あそこに動けないあいつ一人を残したままにもしておけないだろ」
「それもそうですね」
と言いつつ、納得しきれていない顔で遥が頷いた。むしろ、あの場所に女性一人で降りていく事の方が危ない気がしなくもない。
それに、第一にこの周辺で不審者情報を聞いたことがない。どういうわけかこの周辺一帯は平和なものだった。だから、ことさら警戒する必要性も感じられない。
部長として、部員の万一を考えて念入りに行動している、といえば分からなくはないが。
「あ、しまった」
望遠鏡を再点検していた岡谷が頭を抱えていた。何事かと思うと、パーツを忘れたらしい。
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