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「調節ねじがな。下の自転車に忘れてきたみたいだ。取ってくるから、待っててくれ。すぐに戻る」
そう言うや、岡谷は駆け足で下山してしまった。遥と二人きりにされた明は少しだけ焦っていた。偶然か気を使ってかはわからないが、とにかく白黒つけるチャンスは今しかない。しかし、そうやって自分を追い込めば追い込むほど、言葉が浮かばなかった。
「ねえ」
「な、何?」
突然話しかけられて、挙動不審になってしまった。
「そんなに慌てなくてもいいでしょ。オリオン座、今どの辺にあるのかなって」
笑いながら遥は空を見上げた。つられて明も見上げてみる。
冬の空を見上げるたびに、明は硬質なものをイメージしてしまう。ガラスなどよりも、もっと鋭利なもの。例えば、砥ぎ上げられたばかりの刀。指紋はもちろん、錆ひとつつかず、何ものをも拒むかのような冷徹な光沢を放つ刃。星々の煌めきと相まって、なぜかそれを連想する。透き通っているといえば聞こえはいいが、それ以上に冬の夜空はどこか鋭さを持っているような気がする。
だが、そんな冬の空を見ていると、不思議と気持ちも透き通るような気がしてくるから不思議だ。事実、今見上げたことで明は落ち着きを取り戻していた。
「そうだな、そろそろ高い位置に来るはずだけど、ここから見るのはまだ難しいかもしれないな」
そう言って、大きく息を吐く。 そして、遥の方に向き合う。
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