Lyra

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 そう言いながら小山はふっと微笑を浮かべた。  それを受けて「まあ、そうだな」と岡本が頷く横で、明は反応に困っていた。未だに小山の表情が変わるたびに戸惑ってしまうのだ。気恥ずかしさもあるのかもしれないと最近になって気が付き始めたが、だからといって慣れるわけではない。 (そういえば、笹峰に対しても最近どうにも顔を合わせづらいんだよなぁ)  笹峰――笹峰遥。明と同じく天文部の二年生で、今年の秋ごろから、明は以前より彼女と話しにくくなっていた。別に、お互いの態度が変わったわけでもない。だというのに、彼女と顔を合わすたびに後ろめたさに襲われるのだった。ずっとこのままというのも嫌なので、早いうちにどうにかしようとは考えているものの、時間ばかりが過ぎて、これといった打開策も打てないでいる。 「とりあえず、観測場所とか詳しいことは全員集まってから話すわね」 「ん、了解だ」 「あ、は、はい」  ぼーっとしていたせいで少し噛んでしまったが、気にするでもなく小山は読書に戻った。 思えば、この人が何かに執着する姿など想像できない。いつも読書に熱中しているようだが、話しかければ対応してくれるから外から見るほどのめり込んでいる、というわけではなさそうだし、そうかと思えば天体、というよりも天体に関する文学的な知識、例えば神話であるとかを語らせれば誰よりも深いところまで知っている。 (本当に、掴みどころがない人だな)  その小山の隣では早速岡谷がノートパソコンを開いて、オリオン座について情報を集めている。 オリオン座。モチーフとなる神話のオリオンは有名だろう。実際の天体では、特に明るい星々を持つため、他の星を見つける指標として目される。冬の大三角形の一つ、ベテルギウスを持っていることも広く知られているはずだ。  オリオン座について知っていることを確認していると、部室の扉が開いて男性が「悪い悪い、遅れた」と言いながら入り、続いてもう一人女性――遥が入ってきた。その姿を見た途端、明は心臓が一瞬高鳴る嫌な感覚を覚えた。そして、それを隠すかのように慌てて俯く。幸い、誰も気にしていなかった。 「じゃあ、全員揃ったし、小山から年内最後の天体観測について発表してもらうか」  いましがた入ってきた二人が座ったところで岡谷はノートパソコンを閉じ、小山に話を促した。
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