Lyra

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「あ、確かにあるね。暑い盛りに、何を思ったか買ってしまって、甘ったるいのと、喉が後になって渇いて仕方ないのとで、お茶をがぶ飲みしたっけな」 「あらら。それはまた……」 「無性に欲しくなる時ってあるじゃないか。仕方なかったんだよ」  笑われて、少しむきになりながら明は言い、緑茶のボトルを開ける。そのまま部室へと向かうが、その後遥と会話らしい会話はなかった。次の天体観測についてだとか話を振ってみるものの、なかなか長続きせず、結局黙りこくってしまう。部室に帰ってみると流石にひと段落着いたのか、小山は小説の世界に戻り、矢島はレポートに取り組んでいるようだった。次の授業もあり、明は荷物を持つとそそくさと教室へと向かい、この日は特に何もなく、いつも通りに終わった。 ◇  その晩。  忸怩たる思いを抱えたまま、寝床に入ってからも明の目は冴えていた。枕元に置いてある時計を見ると、針は午前三時を指している。多分このままいたってどうせ眠れはしないだろう。上半身を起こし、乱暴に髪を掻いた。イライラしたときの癖で、こういうときは大抵考えがまとまらない。今の悩みは言わずもがな、遥の事だった。普段着に着替えると、紅茶を入れようと明は湯を沸かした。湯が沸くまでの間、椅子に座って目をつぶり、気を落ち着かせようとする。が、まぶたの裏に遥の顔がよぎって、ますますそれが明の神経を逆なでする。  声にならない声をあげ、思わず机に握りこんだ拳を振り落す。いくら壁が薄い学生マンションだからといって、この程度の音が隣に聞こえるはずもないだろう。ヒリヒリと痛む手をさすりながら、自分にそう言い訳をし、そろそろかと思ってカップとポットを用意する。タイミングよく湯が沸き、適度にカップを温めると同時に茶葉を蒸らす。普段はここまで手間をかけない。今こうしているのは、少しでも手を動かしていたかったからである。
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