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はぁ、とため息をつき、スマホで時間を二分にセットする。IHコンロの前を離れて、再び椅子にどっかりと腰を下ろし、茶葉を蒸らす間の時間潰しと、明はノートパソコンの電源を入れて適当にネットを見ることにした。望遠鏡などを調べていると、ふと気になる店が目に入った。その店のサイトを開けようとした瞬間に、スマホのタイマーが二分経ったことを知らせるので、一旦その場を離れて温めておいたカップに、紅茶を淹れる。そのカップを持って、もう一度机に戻ってその店のホームページを調べる。
この店に惹かれたのは、品揃えの良さも理由の一つなのだが、それ以上に、店のロゴが気になったのだ。
「三つ星紋って、これオリオン座のことだよな」
三つ星紋は、本来毛利家を始めとする大江氏族の家紋であるが、これはオリオン座に由来している。中国から仏教と共に妙見信仰として入国し、それ以後武士たちの間ではよく信仰されていた。また、オリオン座は日本神話では住吉三神として伝えられている。天体関連の店で三つ星紋を出すと言うことは恐らくオリオン座の意味を込めての事だろうが、それにしてもこだわりが見え隠れしている気がする。店の所在地を調べてみると、何と天文部が天体観測の際にいつも行っている三船山のふもとにある商店街に存在していた。
――雰囲気も良さそうだし、いい店だな。もし、笹峰と一緒に行けたら……。
ふとそんな考えが浮かんできて、明は真っ赤になって頭から追い出そうとする。
――何考えてんだ! 一緒にいるのも気まずいんだろうが!
急いでその店のホームページを消し、別のサイトへ飛びながら必死になって浮かんできた考えを否定しようとするが、そうすればするほど、遥と一緒にその店に行きたいという思いが頭の中を占めていく。結局、その後一睡もすることはできず、ついに一晩を越してしまった。
「うわ」
その朝、鏡を前にして、思わず漏れた明の一言だった。両目とも充血し、完全に疲れていますよと言わんばかりの顔色だった。心なしか、体の方も重く、引きずっているような感覚に襲われていた。それ以外に体調が悪いということもなく、熱が出ているわけでもないので学校を休むわけにもいかない。
――誰かに相談してみるか。
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