Lyra

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実のところ薄々自分の感情に気がついてはいた。しかし自分の遥に対する感情をおぼろげでも認知する一方で、それを受け入れようとしない自分がいるという矛盾が、遥に対して後ろめたさや気まずさを覚える大きな原因となっているのだった。そのことまでは明も分かっていた。しかしそこから、今の状況を打開しようにもこのまま一人で考えてもいい案は思い浮かばず、考えるだけ無駄であることも日の目を見るより明らかだった。とりあえず大学に向かい、眠気と闘いながら二限目の授業を乗り越えると、そのまま部室へと向かった。 ――できれば、笹峰とは顔を合わせたくないけど。  本人には申し訳ないが、今こんな気分で彼女と顔を合わせたくはない。部室の扉を前に少し躊躇い、思い切って扉を開くと、中には矢島がいた。ノートパソコンに向かって熱心に何かを調べている様子だったが、明が部屋に入って来たのに気が付くと、顔をそちらに向け、「よう」と声を掛けた。 「何か調べものですか?」  矢島の対面に座りながら、明が尋ねると「ああ、まあそんなところだな」と言いながら矢島はノートパソコンをしまった。 「レポートを書くのに資料を読んでいたら分からないところがあってそれを調べていたんだが、だいぶ煮詰まっててな。それで息抜きにオリオン座について軽くネットをうろついていた」 矢島の言うとおり、傍らには何冊か本が積み上げられている。恐らく、レポートに使っている資料がそれだろう。 「ところで、何かあったのか?」  唐突な問いかけに明が目を瞬かせていると矢島が言葉を続けた。 「お前、ここに入ってきた瞬間すごくほっとしたような顔をしていたぞ。大方笹峰関連のことで、何かあるんじゃないのか?」  積み上げた本の中から一冊を取り出しながら、何気ない調子で聞いてはいるが、その目はちらちらとこちらを窺っている。 「何で笹峰になるんですか」 「あれー、違ったのかな。そっかそっか」  途端にニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら矢島は明を挑発する。いつもの矢島のからかいと判断した明は「違います」と冷たくそれを一蹴する。それでも、矢島は含みのある笑顔を消さない。 「おお、そうか。じゃあ、笹峰のことは気になってないんだな」
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