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星座にはそれをかたどっている神話が添えられている。もう昔の話でそのほとんどを忘れてしまったが、一つだけ、まだ俺の記憶に残っている話がある。こと座にまつわる、悲哀に満ちた神話。あれを読んで、子ども心に、夜空を照らしている星だからって、与えられた逸話が決して明るいわけじゃないということを知り、星に願いを、なんて言葉に軽い不信感を抱いたことがあった。
だが、天体への関心が薄れることはなかったし、それはずっと続いている。
◇
大学キャンパス内の木々も、紅葉を徐々にその枝から落とし始める時期になった。どっさり、と形容したくなるような落ち葉の山を箒でかき集める清掃係の用務員を横目に、菊川明は天文部の部室へ足を運んでいた。
「お疲れ様です」
「おう、お疲れ……って、菊川か。あれ、まだ授業じゃないの?」
出迎えてくれたのは少し驚いて目を開いている岡谷浩一。天文部の副部長を務めている。特に明は天文以外にも神話みたいなオカルトにも興味があり、岡谷とはいつもよく話している。それ以外にも、授業について明は度々岡谷に助言をもらっており、実際そのおかげで突破できたものもいくつかある。
「ちょっと早めに終わったもんですから」
「ああ、そうか、もうすぐ冬休みだもんなぁ。授業内試験?」
「そうです。しかも前半は授業っていうフルコースで……参りました」
「そりゃあ、また災難だったな」
そう言って笑う岡谷の対面に明は腰を下ろす。
天文部の部室自体は他の部室とそうレイアウトは変わらない。中央に長机、それを挟むようにしてソファが二つ。他と違う点と言えば、その背後に望遠鏡と、望遠鏡の整備スペースが確保されていることくらいだろう。
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